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エッセイ・コラム

あんたら田舎もんはどうせ

三春

 近所にフレンチレストランができた。といっても、「できた」のは1年以上前らしいが気づかなかっただけ。コロナコロナと騒がしいので電車に乗ってまで食べに行く気になれず、近所をスマホで検索して見つけたのがこのフレンチ。よりによってこんな田舎町にねぇと、大昔に行った「もんぺとくわ」(monpetquoi)(もんぺと鍬のシャレ)という店を思い出した。
 ウエブで見ると意外にもお洒落なページが現れる。要予約・7000円コース(税別)のみ・2時間限定と強気な姿勢が少々気になるが、これもコロナのせいと、地域活性化の一助のつもりで予約した。

 土曜午後6時、客は我々2人だけ。あちらもオーナーシェフとホール担当の2人だけ。雰囲気はフレンチというよりイタリアンだ。まずは赤ワイン、種類は多いが安くはない、無難な値段でいこう。
 シェフがキッチンから声をかけてきた。
「カベルネ・ソーヴィニヨンという名のブドウがありましてね、そのワインですよ」。
ン? いかにも「あんたら田舎もんはどうせ知らんだろうがね」という口調。

 さて、本日のコースメニュー(手書き!)を拝見しよう。
<アミューズ>マスカットの白和え、フォアグラコンフィ西京味噌漬けのソテー
<冷前菜1> ヴィシソワーズのムース、生じゅんさい・生ハム・コンソメジュレ
<冷前菜2> 牛タンのアスピック、マンゴーソース
<温前菜1> 鰻とフォアグラのマリアージュ
<温前菜2> トリュフ卵
<魚料理>  アナゴのリゾット
<肉料理>  小鴨の胸肉、フォアグラ脂のポシェ
<デセール> 白あんクリームを包んだ桃のコンポート

 すかさず、シェフの「あんたら知らんだろう」第二弾の襲撃。
「フォアグラはわかりますか。コンフィはオイル煮ですよ。ヴィシソワーズはポタージュで、アスピックというのは煮凝り。マリアージュは結婚の意味です。リゾットは雑炊に似ていて、ポシェは煮込み。コンポートは果物を砂糖水で煮たものです」。

 ン? ヴィシソワーズは正しくはヴィシー風冷製クリームスープですぞ。よくまぁトリュフを言い忘れたこと! フォアグラ3回登場にはゲンナリ。鰻とアナゴがキッチンで喧嘩したかもねぇ。

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