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エッセイ・コラム

桂離宮を巡る (6)折々の彩り

藤原 道夫

 桂離宮の回遊式庭園内には多くの松や照葉樹が植えられており、常緑の世界をつくっている。加えて折々に花が咲き、また楓の新緑や紅葉も彩りをそえる。

 新御殿から見渡せる広々とした梅の馬場に古い梅の樹が数本あり、早春に紅白の花が咲いてあたりに香りがただよう。
 4月になると新御殿前の池よりに3,4本ある山桜の花が開く。茶色の新芽とうす紅色の花は、白壁と白い障子の目立つ建物群の風情によく似合う。御所と同じでここには染井吉野は植えられていない。
 4月中頃になると天橋立あたりに杜若が咲きはじめる。外腰掛前の「行の延段」はしに置かれた小さな灯篭と生垣越しに薄紫色の花が見えかくれする。松琴亭の前から広々と望む杜若が咲く風景は、緑につつまれた書院群の姿とあいまって実にのどかだ。
 桂離宮がもっとも華やぐのは、4月末から5月初旬にかけて霧島つつじが真紅の花をびっしりと付けるとき。庭園内のあちこちにみられ、中書院と新書院から望む池のほとりや土橋のたもとはとくに見事だ。昔は花をかこむように宴会が開かれたようだ。
 この時季は緑もまた美しい。楓の新緑がみずみずしいし、松の木にもいきいきとした新芽が目立つ。この新芽は植木職人により適度につまれ、木は御所刈りに仕立てられる。
 園内のあちらこちらに植えられている木斛(もっこく)などの照葉樹の葉もやわらかにひかりを照りかえす。その美しさに気付かされたのはまさにここであった。引きたつところに植えられているのに感心する。

 晩夏から秋にかけて、桂離宮内でもっとも高い位置にある賞花亭(しょうかてい)前の斜面に桔梗の花が咲き、萩が花を付ける。この建物は今出川にある八条宮家本邸の茶室「龍田屋」を移築したものと伝えられており、時に紺地に白く龍田屋と染めぬかれたのれんがかかる。展望がよいし風通しもよい部屋での茶会は、のびやかにすすめられただろう。
 晩秋はなんといっても紅葉だ。桂の地は、東山から比叡山にかけての山麓や嵐山近辺に比して温暖でまた朝昼の寒暖差が少なく、紅葉が鮮やかな色に仕上がらないといわれる。これは確かだが、御幸門の周辺や紅葉の馬場あたりはなかなかよい色づきになる。古書院脇の小高いところに建っている月波楼(げっぱろう)の北側窓から見える紅葉の馬場の景色は、その時季の茶会に彩をそえるだろう。

 紅葉が落ちた後にここを訪ねたことはない。寒い冬、松も常緑樹もくすんで寂びた佇まいとなる時季もなかなかよいと聞いたことがある。一度訪ねてみよう。
 雪景色になった時にはぜひとも行ってみたいものだが、これはめったにないらしい。

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