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エッセイ・コラム

桂離宮を巡る (三)三つの延段

藤原 道夫

 桂離宮の庭園には、延段(のべだん)とよばれる三本の道がつくられている。それらは大小さまざまな自然石と切り石とを組み合わせて周囲より少し盛り上げ、巾約1m、長さ凡そ20mにおよぶ直線的につくられた歩道のこと。書体から受ける印象にならい、延段は「草」、「行」、「真」にたとえられている。

 離宮内の南西端に笑意軒という大きな建物がある。二代目当主智忠(としただ)親王によって建てられ、内装が大変凝ったつくりだ。その軒下に「草の延段」が設けられている。外側に大きめの耳石がおかれ、内側に大小さまざま色とりどりの自然石がちりばめられている。長さは建物の横幅とほぼ同じく26mにおよぶ。軒下に腰かけると、池をはさんで向こうがわに新御殿、中書院、楽器の間、古書院が雁行形にならび、新書院前の蹴鞠もできる広場と梅の馬場がみわたせる。「草の延段」は笑意軒で遊ぶ人たちにとって、のびのびとしてくつろげる雰囲気をかもしだすのに一役かっているようだ。
 紅葉の馬場から飛び石をわたってゆくと、外腰掛の前につくられた「行の延段」にたどりつく。外腰掛の端から奥の小さな石灯篭の手前まで17mにおよぶ。この延段は大きめの切り石と表面が平らな大小さまざまな自然石を組み合わせてつくられ、色のついた小石もまざっている。外腰掛は松琴亭での茶会の待合となっており、出席する人の緊張感がただようところだ。はじまる合図のドラの音に耳をすませ、音をたしかめてからこの延段をすすんで茶室へとむかう。
 桂離宮の中門は迷路のようなところに建てられている。門の内側に入ると道は左ななめに向かっているので、貴人が駕籠に乗って通る際に後の担ぎ手が右にふられる。そこを巧みに計算して飛び石がおかれている。その先が「真の飛石」(なぜかここだけが延段でなく飛石とよばれる)、直線的に切られた大小の石がきっちり組み合わされ、不規則ながら折り目正しい模様をつくっている。まわりの苔とさりげなくおかれている自然石がこの延段をひきたてている。まんなかあたりに結界石がおかれ、その先にはいけない。つき当りは幅ひろい石段となり、最上段はむくりのある大きな切り石の沓脱(くつぬぎ)となっている。中門のなか全体が桂離宮内でもとりわけ創設者の審美感が透徹している空間だと思う。はじめてここに立った時、いたく感動してめまいがするような、胸がしめつけられるような、妙な感覚におそわれた。

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