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エッセイ・コラム

One Team

浜田 道雄

 ラグビーW杯2019日本大会は日本中の人々を熱狂させた。私ももちろんその一人で、テレビの中継に釘付けだった。毛むくじゃらの巨漢が大きな身体をぶつけあい押しあって、ボールを取りあう。そしてそれを抱えてゴールに駆け込む。たったそれだけのスポーツが無性に面白かったのである。だが、ラグビーW杯が日本中を熱狂させたのはそれだけではない。日本代表チームの予想外の大活躍があったからでもある。

 ラグビーW杯2019が日本で開催されると聞いたとき、私は「大丈夫だろうか?」と危ぶんだ。日本代表は体格からいっても世界のなかでは弱小チームだろう。だから、大会をやってもすぐ負けちゃうじゃないか?と思ったのだ。しかし蓋を開けてみると、日本代表チームはそんな素人の危惧をあっさりと吹き飛ばす大活躍をして、私たちを熱狂させてくれた。

 ラグビー日本代表は、サッカーの「サムライJAPAN」や「ナデシコJAPAN」のような“日本人だけの”チームではなかった。チームは七つのちがった国籍をもつ選手たちの集まりであり、遺伝子からいえば彼らはもっと多くの要素をもった人々だった。そんな多様なものをもった選手たちが協力して「日本代表」チームを作り上げ、素晴らしい実績をあげた。
 その合言葉は“One Team”。多様性をもつ選手みんなが心を一つにして、強いチームを作り上げる、そんな意味だ。この言葉は昨年の流行語にもなった。

 ところで、人口が減少しつづける日本社会が今後も繁栄していくためには、多くの外国籍の人々をも受け入れて一定の生産人口を確保し、彼らの活力を生かしていくことが経済的にもまた社会的にも必要になる。そのためには、日本社会が様々な国から来た人たち、多様な文化をもった人たちを包含して、ともに暮らせる“多様性を許容する社会”にならなければなるまい。だが、ながらく単一民族の幻想にこだわってきた日本人は、果たしてそのような多様な要素をもった人々とともに、そのような社会を作っていくことができるだろうか?
 “One Team”はラグビーだけの話ではない。これからの私たちは日々の暮らしのなかにその精神を取り入れていかねばならないのだ。

 ラグビーJAPANは、私の日本の未来への危惧に対して強い希望あるメッセージを与えてくれた。彼らは日本の未来社会のモデルであり、先ぶれであったのだ。

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