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エッセイ・コラム

ローカル線普通列車の旅 ⑥ ~しなの鉄道・小諸の夜~

斉藤 征雄

 長野から、しなの鉄道で小諸に向かう。しなの鉄道はもともとJRの信越本線だったのが新幹線の開通とともに第三セクターとして分離された。正確には、三セク部分は篠ノ井から軽井沢で、長野から篠ノ井まではJRのまま(篠ノ井線)である。長野と中央線の塩尻を結ぶ篠ノ井線は、重要な線なので切り離すわけにはいかないのだろう。
 長野から小諸は1時間ほどだが、私はこの沿線に昔仕事で何度か来た。戸倉上山田温泉にも泊まった。近くには、芭蕉が「田毎の月」を愛でた場所として有名な、姨捨の棚田がある。

 小諸には夕方着いたが、まだまだ日は高い。泊りのホテルは駅のすぐ近く懐古園の隣なので、チェックインを済ませて早速小諸城址・懐古園散策に出かけた。
 500円を払って園内へ。二の丸跡、本丸跡どれも石垣が苔むして風格があった。そして城全体が深い谷で囲まれ防御されている。しかも地形的に城が谷底に位置している格好なので、昔は「穴城」と呼ばれたという。
 この城に誰が居城したかは四人とも知らなかった。後で調べたら武田信玄の東信州の拠点だったらしいが、そんなことも知らずして「小諸なる古城のほとり」などと言っている日本人のなんと多いことか、と叱られそう。しかもわれわれは、そもそも信玄の拠点「躑躅ヶ崎」がどこにあったかも定かには知らないのだから日本人として恥ずかしい限りであった。

 懐古園を出て市街地の方へ歩くとだらだらとした上り坂だった。今日の夕食は、S氏が既に予約を入れている「小諸食堂」という居酒屋。坂を上っていくとすぐに見つかった。
 母娘の親子でやっているというが、われわれの係は雇いのおばさんらしい。先ず生ビールそして地酒である。おばさんは飲み放題を薦めたが、品よく断りその都度頼むことにした。
 つまみは、先ず馬刺しを頼んだ。なんでも、N氏はつい最近フォト句の食事会で馬刺しを食べたとのこと。それに参加できなかったM女史が、今日は何が何でも馬刺しを食べると張り切っているのだ。後は手当たり次第に枝豆、冷奴、餃子、牛もつ、豚もつ、煮込み、冷やしトマトなどを頼んだ。馬刺しはきれいな赤身でうまかった。三時間ほど地酒を飲んだ結果、その銘柄が何であったのか記憶がないほど飲み過ぎてしまった。
 おぼつかない足取りでホテルに向かう。呼び込みのお兄さんが立つ胡散臭い飲み屋街を通ったが、立ち寄らない。カラオケがあれば、と思ったがその看板も見当たらなかった。夜空は東京では見られない豪華な星空だった。M女史が、あの星は何? と言ったが誰も答えられない。コンビニで酒を買ってホテルで飲むという機転も飲み過ぎた頭では働かず、旅の二日目小諸の夜は更けていったのである。

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