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エッセイ・コラム

B737Max旅客機の悲話

松浦 俊博

 B737旅客機は1960年代後半から短距離路線に採用され、常時2000機が飛行中といわれるベストセラー機だ。運航開始から半世紀後の2017年に最新鋭の改造旅客機B737Maxを投入したが、その翌年と翌々年に続けて2度、離陸直後に墜落し合計346名死亡という悲惨な事故を起こした。

 B737Max旅客機は燃費と騒音を改善するためエンジンのファン直径を大幅拡大した。このためエンジンが主翼の下部に納まらず前方に移動した。その結果、試験飛行時に機首上げ傾向になった。そこで過大な機首上げを防ぐため自動で機首下げするシステムを追加した。これが事故原因になった。
 事故機では、システムを構成する迎え角センサー2個のうち1個が故障していたのに、システムは故障という状況判断ができず起動し水平尾翼を機首下げ方向に回転した。パイロットは手動で水平尾翼の昇降舵により機首上げ操作を繰り返す。誤った信号による自動操作をパイロットが手動操作で戻そうとした結果、力負けして墜落という悲しい話だ。

 機体の重心と空力中心の位置関係が改造により変わらないように設計するのは一般的だ。主脚を30cm長くしてエンジンを主翼の下に納めれば位置の調整は容易になる。面倒な設計変更を避けたかったのだろうが、結局追加システムを付加することになり、良い事は全く無かった。
 追加システムについても不可解な点が多い。なぜ追加操作に大きな水平尾翼本体を駆動するのか。昇降舵のほうが適切だろう。更に、センサーが1個故障しただけで誤作動する脆弱さも問題だ。重要な信号は3つ計測してそのうち2つの一致が認められないと採用しないのが一般的な設計思想だが、重要性を軽んじたのだろうか。また1994年にA300が名古屋空港着陸時に墜落した事例などを考えて、自動操縦と手動操縦の切替え時に問題が生じることにもっと注意すべきだった。

 今後、好むと好まざるに関わらず、旅客機はパイロットレス化していくだろう。こんな初歩的な事故を起すとは行く手は暗い。航空機メーカーのプライドと誠意を示してほしい。

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