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エッセイ・コラム

ばんえい競馬

三春

 台風15号の被害確認中にベランダですってんころりん、コンクリートの床に頭を強打した。見る見るうちに顔の左半分が腫れ上がって「四谷怪談」のお岩さんそっくり。翌日、航空券を無駄にすまいとお岩は札幌へと旅立った。サングラスを外せば道行く人が振り返るのに、相棒いわく「ちっとも気にならないわよ、いつもと大して変わらないもの」。(えぇっ?)

 今回の目玉は「ばんえい競馬」。毎週土日月に帯広で催される世界唯一の農耕馬による競馬である。札幌から帯広までは特急列車で2時間余り、風の吹くまま気の向くままでいい。
 帯広1日目。バスで真鍋庭園へ。ここの主役は花ではなく針葉樹である。2万5千坪の広大な庭園を渡る風が涼やかだ。夕食はクチコミ頼りで選んだ「農家バル」が大当たり、近隣農家直納の十勝野菜は新鮮で彩り豊か、黒毛和牛やワインも加わって明日のレースに期待が高まる。
 帯広2日目。開場は11時だがレース開始は13時らしい。それではと「百年記念館」で開拓史を勉強し、「馬の資料館」で予備知識を仕入れる。華やかなサラブレッド競馬と違って、「ばんえい競馬」は開拓時代に農耕馬として活躍した「ばん馬」のレースだ。重量1トンもの鉄橇を曳きながら200m直線コース、途中には2つの坂が待ち構えている。
 ところで、二人とも馬券の買い方を知らない。初心者向けコーナーで教えを乞い、パドックで馬を観察し、オッズを覗きこんでも、勝ち馬を予想するのは至難の業だ。最初は無難に人気馬の8-2複勝でいこう。
 いよいよ第1レース。太くて短い脚、がっしりした体格、パワーとスピードの勝負だ。迫力と健気さとが……あれ? 出足は狙い通りだったのに坂の手前で全馬が止まった。9頭が横一列に並んでから再スタート。だったら最初からここでスタートすればいいのにとぼやくお岩をよそに、馬たちはもうもうと砂煙をたてながらゴールに次々なだれ込む。お岩の馬は3位だ。なぁんだ3位かと馬券をゴミ箱にポイ! わーい3位だといそいそ換金しに行った相棒を見てハッと気づいた。複勝は3位までOKなのだ。
 さぁて、どのゴミ箱だっけ? お岩の執念恐るべし!

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