作品の閲覧

エッセイ・コラム

地上の風 (その2 台風の抑制)

松浦 俊博

 台風は不要なものだろうか。大きな被害の報に接する度に台風の抑制は必要だと感じる。
 まず考えるべきことは台風の恵みだ。台風が赤道付近の熱エネルギーを温帯にある日本に供給するので、私たちは四季と共に豊かに暮らせる。夏の水不足の解消も台風のおかげだ。台風の大雨は川底の石を綺麗にするので魚が卵を産み付けられる。また、台風が海水を撹拌するので、深い海へ酸素を供給し逆にそこの豊富な栄養を海面近くに運び、秋刀魚などの豊漁をもたらす。サンゴ礁の水温上昇も抑えられるので多くの生物が生き延びる。台風のおかげで生態系が守られている。

 このように台風は私たちにとって必要なものだから、台風を全面的に封じ込めるのではなく、人的被害が最小になるように抑制したい。このためには強風の抑制が優先されるべきだ。洪水は街の改造により防止できるだろう。
 気象庁の台風データによると、1981年から30年間の平均では、1年間に約26個の台風が発生し、そのうち11個が日本から300km以内に接近し、3個が日本に上陸した。月別の発生数は7月から10月の間が多いが、このうち9月の台風は大きな被害をもたらす。9月は日本付近に秋雨前線があり、台風の東側をまわって流れ込む湿った空気が前線を活発化させて大雨を降らせるためだ。

 どの台風を、いつどのように抑制すればいいかを考えてみたい。台風発生時に、日本への被害が大きいか否かを推定するのは難しい。こういう場合は逆に結果から発生を推定することができる。すなわち、日本に大きな人的被害をもたらした1990年以降の8つの台風について、発生位置と進行経路を調べてみた。発生位置は北緯10-18°で東経140-170°の領域である。これは緯度方向1000km、経度方向3000kmの広範囲におよぶ。進行経路は、最初は西から西北方向に進み、台湾の東で東北方向に向きを変える。発生位置にかかわらず、北緯15°で東経140°付近を通過する。熱帯低気圧として発生してから1-2日で最高風速が毎秒17m以上の台風に成長し、寿命は1-2週間である。台風に成長すると手が付けられないので抑制できるとすれば発生過程であろう。

 発生のプロセスは、まず赤道付近の温度の高い海面表層が貿易風により西に運ばれ、フィリピン沖で海面が盛り上がり温度の高い海域を作る。海面温度が27°を越える海域では大規模な上昇気流が発生しやすく、周りの海水から蒸気を取り込みながら成長すると熱帯低気圧になり、更に成長すると直径60kmくらいの台風になる。つまり発生には海面温度が高い海域があることと、周りの海面から蒸発した蒸気を取り込むことが条件になる。これを制御すればいい。

 海の表面温度が27°に上昇しても、海面下500mでは10°程度まで下がる。台風が発生して北上すると、海の表層で広範囲に海水が撹拌されて温度が下がる。もし次の台風が引き続き北上すれば低い温度の海面を通過するので、上昇気流は抑えられ台風は弱くなる。では熱帯低気圧を連続的に発生させるにはどうすればいいか。4-5日間隔で海面に直径40kmくらいの熱い領域を作り上昇気流を成長させる。場所は前述の北緯10-18°で東経140-170°の領域の中で温度の高い海域を選ぶ。かつ関係国の了解が得られる必要がある。
 表層が熱い海域の作り方は、大形のオイルフェンスにカーテンをぶら下げたようなバリアを海面に浮かべて、貿易風により運ばれる高温の海面流れを堰き止める。バリアは海面から深さ方向10m程度をカバーして、かつ容易に移動できる構造でなければならない。さらに、植物油など無害の油を貿易風の風上である東側海面に撒くことにより、海面からの水の蒸発を一時的に止めて海面温度を上昇させる。これを複数の場所で同時に行い、熱帯低気圧が生じたら場所を変えて繰り返す。
 このようにして、人為的に小さな台風を連発させることにより、日本に大被害をもたらす大形台風の発生を抑制することができないだろうか。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧