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エッセイ・コラム

今回の芥川賞は……

内藤 真理子

 今迄読んだ芥川賞作品の中で、好き嫌いはあるものの理解できないものはなかったと思う。だが今回の受賞作の一つ「ニムロッド」=上田岳弘著は全く理解不能だった。選者の評は誰も難解とは書いていない。
 私は時代に取り残されているのだろうか。大変だぁー。
 主人公の中本哲史(BTC=ビットコインの創設者と同性同名)の勤める会社は色々なWEBサイトのサーバー(PC=パソコンからアクセスを受け付けるコンピュータ)をまとめて運用するデータセンターを持っている。Yahoo等のミニ版である。
 彼はBTCを採掘するために新設された課の課長になった。
「ビットコインを採掘?」
 例えば中央銀行が発行する通貨、円やドル等の価値を保証するのはその国の国家や銀行である。
 ビットコインは、プログラム化されたルールに参加する仮想通貨で、円やドルと同じ意味を持つが、手に取るのではなくPC上の帳簿が管理する。
 この世界には限られた量のBTCが埋蔵されていて、誰でもそれを採掘(マイニング)することが出来る。今や世界中の人々がBTCに投資していて、価値が乱高下しながらも上がり続けている。
 勿論、BTCは埋まっているわけでなく、存在を保証するのは取引台帳である。そこに書かれてあるだけなのに、その状態を存在すると皆で合意すれば、BTCは存在することになる。
 取引台帳を継続する為には、台帳の分散保有や、取引の追記などデータを確認しながら新たに発生したすべての取引を記載しなければならない。これらの作業の計算手順や処理手順、課題等はアルゴリズムが解決している。それに参加した沢山のPCの計算力を借りて台帳への追記を行う。その報酬として新たに発行したBTCが贈られる。
 採掘課長の中本は、高い報酬を得られそうなPCを選んでインストールして、昼夜フル活動をさせて利益を採掘する。

 題名の『ニムロッド』は、バベルの塔を神に逆らって造った人ニムロデにちなむ。小説は人間の不遜を嘲笑しているのか?未だ理解できていないBTCもさることながら、無謀な挑戦をするも使えない飛行機のコレクション、どろどろに溶け合った人類等、私にはよく解らなかったが、言いたいことがいっぱい詰まった、芥川賞にふさわしい作品なのだろうと思った。

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