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エッセイ・コラム

62年ぶりの同級生

松谷 隆

 昨年11月14日午後6時、4年ぶりに神戸空港に到着、翌日の墓参りと8年ぶりの中学3年時のクラス会のためだ。 幹事2人宛ての年賀状には必ず「ぜひクラス会を」と一行追加してきた。特に昨年は「喜寿なので、今年はぜひ」と書き加えたことがやっと実った。

 幹事から「26人へ案内発送、6人分が配達不能」との連絡で、少数かなと思っていた。前日15人と知り、どんな顔が揃うかと期待して会場入り。
 男5、女9人(1人ドタキャン)で始まった。和気藹々で会席料理と、時間まで中学時代にもどり会話と酒を楽しんだ。
 出席者のうち、2人はクラス会初登場で、62年ぶりの再会だった。が、その1人、U君を4ヶ月後にNHKの番組で見かけようとは思いもよらなかった。しかし、クラス会で会っていなければ、番組を見ていても、多分見過ごしただろう。
 中学時代の彼については、寡黙で頑張り屋という印象が強い。卒業間際に担任が「このクラスにはすごい頑張り屋がいる。冬休みに入ってすぐ『県立高校を受験したいので勉強を見てほしい』と押しかけてきた生徒がいる。やむなく依頼を受けたが、年が明けても毎週やってきて、ついに合格ラインに達している。努力は報われる」と話したとき、これはU君のことだと直感した覚えがある。なぜなら、当時受験可能な県立高校は2校だけで、受験生も判明していたからだ。

 さて、3月18日放送のNHKの『小さな旅』である。高知県室戸市の話で、副題に「お遍路宿」とあった。これを見たのはその4日前にクラブの「掌編小説勉強会」で、四国88ヵ所全行程歩きのお遍路体験をベースとした、『お四国さん』を合評したばかりだったので、お遍路宿に興味があったから。

 同級生が登場したのは25分番組の18分すぎ、室戸市の遍路宿の扉を開け、入ったところから。宿の亭主への挨拶の時、「77歳の男性」との音声で、あれと思った。よく似ている。次の入浴シーンで確信した。食堂でビールを飲み始めたときに出たテロップで彼と確認した。
「えっ!あいつがお遍路を」と叫んだ。というのも、彼と一緒に運動した記憶がないからだ。しかし、ナレーションでは、その日20キロの歩きとのことだが、疲れを感じさせないし、また、会社時代は営業マンとして活躍したとのこと、これも中学時代のイメージとは様変わりだった。
 宿のもてなしで「足摺まで歩けそうだ」と言ったのにはびっくり。翌朝、しっかりした足取りで出発したのは立派だった。
 もちろん、幹事たちには感謝の念を込めて、彼の様子と再放送予定を連絡した。幹事から「彼は足が落ち着いたら、再挑戦する」と聞き、さらにU君から中断の原因と続行の決意を聞いた。彼の踏破を願っている。

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