作品の閲覧

エッセイ・コラム

小さな旅 ~アジア編

西川 武彦

 毎週月曜日、早目の夕飯を掻き込むと、新宿経由で新大久保に向かう。平均年齢75歳の男声合唱団の定期練習が18時半から二時間あるのだ。山手線を降りれば、アジアのどこかにまぎれこんだ感じである。顔かたちで印パ、アフリカ系はなんとか分かるが、アジアの奥・ネパール・スリランカ辺りからも増えているようだ。中国・韓国系だろうか、最近は身だしなみも日本人と変わらず、近くで喋るのを聴かないと判断できない。
 練習場は、駅から徒歩10分、大久保1丁目にある。界隈の人口の四割が外国人と聞く。足が遠のいた海外への旅をこの地で味わっている感じだ。

 途中で、冷たい飲み物やのど飴を調達するために立ち寄るコンビニの職員は、ほとんど外国人であることが胸の名札で分かる。日本語が巧いから、そうとは気がつかずに終わることもままある。筆者が住む若者に人気の町「シモキタ」もしかり。振りかえれば、この二、三年の現象だ。
 こんなことをつらつら考えていた最近、タイムリーに、「コンビニ外国人」という新書本と出会った。著者の芹澤健介さんが、コンビニで働く外国人に興味を持ったのは、2012年頃という。彼は当時浅草に住んでいたというからさもありなん。約一年、100名の外人店員に取材してまとめたのがこの本だ。2018年5月刊行である。
 コンビニでアルバイトする外国人の大半は留学生だ。…といっても名ばかりの出稼ぎ留学生も多いらしい。お役人大国のジャパンでは、留学生には、「週二十八時間」というルールがあるそうだが、コンビニだけでない、外国人はスーパー、飲食店でも見かける。風俗を含め、抜け穴はいくらでもあろう。同書によれば、2016年、外国人労働者数は100万を超えたという。
 筆者の自宅の界隈は戦災を受けなかったこともあり、家屋の老朽化や世代交代等で、宅地の売却、マンションへの建て替え工事で騒がしい。アホノミクス?の景気対策かもしれないが、よくみると労働者にも外国人がチラホラ…。
 先日、パソコンの具合が乱れたので、保全のために利用しているNortonに電話したところ、こちらのパソコン・レベルを会話でそれとなく窺がいながら、起承転結見事に、問題を解読・解決してくれた。そのあと頂戴したメールで、担当者の女性は中韓系と断定した。
 一事が万事、一向に止らぬわがジャパンの人口減のなか、傘寿を過ぎた筆者が千の風になる頃には、スーパー・コンビニは、AIと外国人労働者ばかりという風景になっているかもしれない、とご隠居は呟いている。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧