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エッセイ・コラム

クーベルタン男爵の主張・・・スポーツの精神とは

大平 忠

 いま、『君たちはどう生きるか』が広く読まれている。この本は、昭和11年山本有三が中心となって編んだ「日本少国民文庫」全16巻の中の1巻である。
 私の兄たちは、この少国民文庫を夢中になって読んだという。戦後、少年のための読物がなく、私はこれら兄たちが残してくれた何冊かの少国民文庫を繰り返し読んだものだった。その「日本少国民文庫」16巻の中の第5巻が、『スポーツと冒険物語』だった。
 この本のスポーツの部分は、学生野球の父と謳われた飛田穂州が編集しており、はじめに、オリンピックの歴史とその精神とは何かが書かれている。
 冒頭、近代オリンピックの創始者クーベルタン男爵の言葉が紹介されている。

「現代のオリンピック主義とはなんぞ。人生の主眼とするところは戦ふといふこと、そのものにあって、勝利を得ることは第二の問題であると思ふ。従って最も肝要なことは、勝つか負けるかといふことではなくて、どうすれば立派に戦ふことが出来るかといふことにあるのである」
そして、このあとにこんな文章も続いている。
「・・・この考へは単にスポーツのみに限らず、人事百般に就いてもいはれることで、健全且つ幸福な人生観の基礎をなすものである。・・・」

 大東亜戦争の起きる数年前にこれらの本は当時の少年少女たちに愛読されたのであった。皇后陛下が推奨された「世界名作選」「日本名作選」もこの文庫の中の本であった。いまの日本は、私の兄たちの息子と娘の世代が背負っているが、きちんとオリンピック精神、スポーツマンシップが伝承されていることを強く望みたい。オリンピック競技も、紀元前300年前アレキサンダー大王の頃から勝敗にこだわるようになり、精神が堕落したとか。1896年、初期の立派なオリンピック精神の復活を掲げて、クーベルタン男爵はアテネで第1回近代オリンピック競技会を開催した。

 今度の日大アメリカンフットボール部の事件を見るに、やはり、私たちはギリシャ・アテネのオリンピック、そしてそれを復活させたクーベルタンの精神にもう一度真摯に立ち返る必要があるようだ。『君たちはどう生きるか』に次いで 『スポーツと冒険物語』も復刊されるといいのだが。

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