作品の閲覧

エッセイ・コラム

桜の品種名は面白い(一)

藤原 道夫

 桜の図鑑には凡そ300品種が載っている。他に地方独特の品種もある。弘前公園で白い八重咲きの花の中心部が紅色の「弘前雪明」に出会った。多くの新品種の桜を作出している松前で広大な桜見本園を見て回った時、「松前琴糸桜」や「松前薄紅衣」と名付けられた薄紅色の八重桜を見かけた。京都の平野神社には白い大輪一重の「平野寝覚」がある。これらを含めると500品種以上に及ぶとか。桜の品種名は、いくつか挙げたように凝ったものが多く、また名の由来もなかなか面白い。

 全国的に最も多い「染井吉野」は、江戸時代末期に染井村(現在東京都豊島区内)の植木屋の畑で作り出された、とする説が有力である。当初「吉野桜」という名で売り出された。花は吉野(ヤマザクラの群生地)が江戸でも知れ渡っていたことが分かる。この桜は葉が出る前に沢山の花が付くことから人気が出、挿し木により大量に育てられて拡がった。その後(1901年)吉野の桜とのまぎらわしさを避けるために、「染井吉野」と命名された。二つの地名をうまく繋げた名というべきか。
 この桜はエドヒガンとオオシマザクラとの掛け合わせと推定され、実験によっても確認されたと思われた。ところが、つい最近のDNAの解析により、エドヒガン47%、オオシマザクラ37%、ヤマザクラ11%などから成ることが分かった。染井吉野にヤマザクラの遺伝子が入っていることが分かり、花は吉野に一脈繋がったことになる。

 染井吉野の満開が過ぎた頃、新宿御苑で薄紅色一重の花を沢山付けている樹を見掛けた。「アメリカ」と記した名札が掛かっていた。苑内に離れ離れに少なくとも3本ある。
 由来を調べてみると、日本からアメリカ・ワシントンに渡った染井吉野の実生から、カルフォルニアの農園で選別された由。当地で「Akebono」という名で拡がった。日本に導入される際に、既存の「曙」との紛らわしさを避けるために、「アメリカ」と命名された。名は素っ気ないが、染井吉野に比して花弁がやや大きく色もやや濃く、花の美しさで優っているように思う。この桜を公園や桜並木に染井吉野と適度に混在させて植えたら、今とは一味違った花の風景になるだろう。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧