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エッセイ・コラム

低反発マットレスの原理

松浦 俊博

 低反発マットレスを使い始めて10年以上になるが、腰痛や肩こりをずいぶん和らげてくれる。体重を支える場所が広い範囲に分散することにより疲れを緩和する。身のまわりには、これに似たようなことが多くあるように思う。

 例えば、空高く飛ぶ飛行機の下を歩いていても重いとは感じない。飛行機のすぐ下にいると、風が吹き降ろしてきて重いと感じるだろうが、少し離れると風は広い範囲に広がって、そよ風になり消える。海底がはじけて生じる津波も、海岸付近までを往復する間に干渉して消えていく。これらの例を見ると、部分的に歪んだ状態は長持ちせず、均一な状態へと変化していくようだ。ちょうど、疲れない姿勢が長持ちするのに似ている。
 他の例として、金属を高温に熱してから水で急冷すると固くなる。鋼(はがね)の焼き入れである。そのままだと内部に大きな歪が残り割れやすいので、少し低い温度で保持すると歪が分散して割れにくくなる。焼きなまし(アニーリング)といって金属の熱処理に広く使われる。金属が疲れない状態に変化するようだ。

 一般的には、安定した状態とは作用と呼ばれるエネルギーの最小状態だと考えられている。つまり、リラックスした状態に変化するのが自然の摂理ということなのだろう。
 この摂理は飛行にも当てはまる。飛行機の周りの流れは、飛行機の形状に対して抵抗や渦が最小になるような状態に落ち着く。いわば、流れが最もくつろいだ状態である。飛行の先輩である鳥は、流れをさらにくつろがせる飛び方を知っている。鳥の羽は羽毛に覆われていて、その中に境界流れを取り込んで流れとの摩擦を減らしている。また、飛行速度に合わせて羽の形を変えて流れを羽に引き寄せている。まさに低反発マットレスの原理を体現しているようだ。

 近年、量子コンピュータにより解析速度を上げる試みがなされている。その手法の一つに量子アニーリングという方法があり、息子がかかわっている。私にはさっぱりわからないが、きっとリラックスする方法なのだろう。

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