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エッセイ・コラム

ドウテルテさんの威力で……

内藤 真理子

 息子が六年前からフィリピンのマニラに住んでいる。行った当初は、何度か私も旅行を兼ねて行って見たのだが……。
 街には浮浪児が溢れ、旅行者に纏わりついて「千円、千円」と手を出す子供の群、通行人のポケットに手を突っ込もうとする子、ハンドバッグを引っ張る子の数の多さに驚いた。そんなダウンタウンのコンビニには銃を持った強そうなガードマンが門番のように立っていた。

 息子がいると思うと、我が家でテレビを見ていても、少しでもフィリピンの名前が出ていると、ニュースだろうが、ドキュメント、果てはお笑いでも何でも見入ってしまう。
 ドゥテルテさんが大統領になり、麻薬犯罪者は殺しても良い、国連はくそ野郎、などの暴言を吐き話題をまきちらしていた時期もあった。だが、このところ日本のニュースでは影を潜めていた。
 ところがどっこい、フィリピンでは、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の超過激ぶりは未だ衰えてはいないようだ。
 フィリピン国内の世論調査では高い支持があるそうだが、国際機関や人権団体にはひどく評判が悪く、独裁主義に対する抗議デモなど行われている、というニュースが日本のテレビでもチラッと流れた。
「あのニュースは何なの?」息子に聞くと、大まかな事を教えてくれた。

 新聞社「インクワイアラー」は、大統領に対して批判的な記事を載せ続けている。その新聞社の持ち主でもあるルフィノ・プリエト財閥も当然、大統領に敵対している。その財閥が所有している不動産会社「サンバ―社」が政府が持っている土地の賃貸料を滞納していることを理由に、大統領から訴えられた(いちゃもん?)。そして裁判になり大統領側が勝訴した。その途端、サイバー社が所有していた四棟のビルの270社以上のテナントに対して三日以内に立ち退きを命じられた。
「僕の会社も、その中の一棟、マイルロングビルにテナントを持っていたのだけど、命ぜられた一日目は、報道を疑って、誰も動かなかったんだ。
 でも二日目になると、テナント同士でこの要求はおかしくないか? と話し合って、申請をしたけど受け入れてもらえない。結局、ドゥテルテさんの人柄を考えると、すべて没収されかねないと判断したんだ」
 さいわい息子の会社は建築設計事務所だったので、自社のトラックで午後からすべての物を、エアコンから電球一個までトラックに詰め込んで、とりあえず自宅に運び、すべてが終わったのが三日目の午前四時だったそうだ。
 他のテナントも三日間でほとんど全部が立ち退いたという。逆らったら何をするかわからないドゥテルテさんの威力は凄まじい。
 息子は「立ち退かされたその瞬間から路頭に迷わざるを得ない人が千人以上も出たと思うよ」と、大統領に少々批判的にはなったが……。
 そんなことがあっても、ドゥテルテ大統領、世論調査では以前より少しは下がったものの、今も高い支持を得ているという。
 その支持に応えて、こんな大鉈を振るっても、終わり良ければ総て良しで、物乞いをしなければ生きていけない子供がいなくなるフィリピンを一日も早く実現させてもらいたい。

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