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エッセイ・コラム

IT事情 ~隠居のつぶやき

西川 武彦

 東京メトロ銀座線で、無料通信アプリ「LINE」を使い、電車で座りたい妊婦と席を譲りたい乗客をつなげる実験をしているらしい。11月末のA新聞の報道だ。
 仕組みは、「席を譲ってもよい」と考えている人が、あらかじめラインで「&HAND」というアカウントを「友だち登録」して「サポーター」になる。
 電車に乗った妊婦が、数メートルの距離に無線信号を発する専用の機器を使い「座りたい」という信号を発すると、サポーターのラインに「妊婦さんが近くにいます」というメッセージが届く。で、席を譲ろうという場合、ラインで自分の位置を入力すると、その場所が妊婦に通知されるという仕組みとか。席を替わるときに顔を合わせるが、個人情報は伝わらないそうだ。

 杖を使う高齢者や筆者のような傘寿を過ぎた超高齢者も対象にしてもらいたいものだが、なんともややこしい仕組みである。
 そもそもLINEとはなんぞや…?と、つぶやきながらWikipediaで調べると、「LINEはスマートフォン、フィーチャーフォン、タブレット、パソコンで利用できるアプリケーションである。複数の携帯及びタブレットで同一のIDを使うことはできないが、Android搭載端末とiPhoneのLINEでパソコン用LINEとiPad用LINEアプリが同時使用できる……」云々と、長々と解説が続くが、さっぱり分からない。
 そういうことが理解できない憐れな高齢者は対象外なのだろう、と悲しんでいたところ、12月18日付T新聞では、足を痛めて杖を使うという60歳の読者が、「席譲る気配りIT以外でも」という見出しでこの問題を取り上げていた。
 曰く、それ自体はいいことで、高齢者も対象にしてもらいたいが、「…今の日本人は、こんなことまでスマホ・LINEに頼らなければならなくなっているのかと情けなくも感じる。車内で困っている人に席を譲る行為など、もっと自然になされるべきではなかろうか。」と嘆き、「……東京メトロは、この試みを始めると同時に、それだけでよしとせず、席を必要とする乗客には自然に気を配ることを促す呼びかけを今以上にしてもらいたい…」と、願っておられた。さもありなん。

 新聞を読み終えて、夕刻の混みあう電車に乗ると、そんなことは馬耳東風というように、ほとんどの男女が、押し合い圧し合いしながら、頭を軽く下げてスマホと睨めっこしていた。
 目的地に着き、降りようとドア際のスマホ族の若い女性の背中をおすと、痴漢に触られたかのようにじろりと見返されたから情けない。触らぬ者に祟りなしか、とご隠居は寂しく呟いている。

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