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エッセイ・コラム

スイスとウィリアム・テルに学ぶ(2)

安藤 英千代

 ウィリアム・テルはスイスの国民的英雄です。
 スイス建国は、14世紀初頭支配していたハプスブルグ家の圧政に苦しむウーリ、シュヴィーツ、ニトヴァルデンの3州の人士がリュトリの丘に集結し、『永久同盟』を結んだのが始まりです。
 ハプスブルグ家の発祥の地はスイスのアールガウ地方で、中世、神聖ローマ帝国の皇帝位を約四世紀にわたって独占し、『太陽の没することなし』と言われた大帝国を築きました。
 1315年11月15日、スイス同盟にとって存亡を掛けたモルガルテンの大決戦が行なわれました。 ハプスブルグ家軍 3700名、スイス軍はわずか1300名です。それはあたかも織田信長 『桶狭間の戦い』 でしたが、スイス軍は寄せ集めの農民で、常識ではとても勝ち目はありません。そこで彼らは山地に身を潜めて待ち伏せし完膚なきまでに撃破しました。その後、何回も両軍は戦いスイス軍は連戦連勝、ついにハプスブルグ家を東方辺境のオーストリアに追い落とします。
 しかしここが歴史の面白いところで、スイス支配を諦めたハプスブルグ家は、武力ではなく、『結婚外交政策』 でヨーロッパ各地の支配を拡大し繁栄します。

 ウィリアム・テルは実在しなかったようですが、建国の勇士を象徴する存在として、700年を経過した今も、スイス人に深く愛され尊敬されています。
 テルや息子や射抜いた林檎は様々な絵やイラストになり、スイスを象徴するモチーフとして使われ、スイスの紙幣、硬貨、切手にも当然のように登場しています。1918~1925年に発行された100スイスフラン紙幣やその後発行された5フラン紙幣にはウィリアム・テルの肖像が描かれ、1954年から発行された第五次銀行券の最高額面1,000フランの裏地模様に射抜いた林檎が描かれています。また1922年に5フラン銀貨改定時に肖像が使われ現在も同じ図案です。普通切手には長期に渡ってテルの顔が使われ、息子の肖像も使われ、射抜かれた林檎も児童福祉の慈善切手に二回登場しています。

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