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エッセイ・コラム

野次馬する

内田 満夫

 あれこれと生活の無聊を紛らわせる工夫をしている。世上を賑わすいろんな騒動は、私の「野次馬する」ジャンルの格好の材料だ。いま渦中の「M学園」がT市に建設中の学校現地はなんと、私が学校時代を過ごした棲家から歩いてほんの2、3分のところにある。青春の日々への「タイムスリップ」をかねて、さっそく出かけてみた。野次馬する対象は事件や事故のことが多いから、これが程度の低い覗き見根性に過ぎないことはわかっている。しかし騒動に群がるテレビ局や記者としたところが、体のよい野次馬ではないだろうか?
 件の「M小学院」は、高速道路沿いの赤茶色の目立つ校舎だからすぐにわかった。敷地を囲むフェンスのところどころに私と同類らしき人影があって、ここが俄か名所となっていることがわかる。知らぬ者同士が一見(いちげん)の連帯感を漂わせ、何やかや言葉を交わしながらしきりに中を覗いている。空港が近いからひっきりなしに飛行機音がして、校舎の上方にぬっと現われる機影もぎょっとするほどの大きさだ。敷地はゆったりと広く、日の目を見ることになればさぞ立派な学舎になるだろうと想像されるだけに、惜しいことである。
 半世紀前にタイムスリップしてみる。2級河川の小川の小高い土手が、小さな街を囲むようにめぐっていて、その外側に畑や竹藪や原っぱが広がっていた。牧場らしきものが退いた跡地に突如出現した不思議な円形の構造物は、今にして思えば高速道路のインターチェンジだったのだ。空調などなくて、夏は暑く冬は寒い、季節感の濃厚な時代だった。住所表示には「大字」が冠されていた。
 今は川筋が埋められて道路となり、幅広の幹線道路が真ん中を貫いて街並みの様相がまったく変わっている。周辺の緑はほとんど食い尽くされて、すべてがべったりした住宅群になってしまった。遮音対策がされて、空港や高速道路の騒音をものともせす、平然と学校が立地する時代になった。私の心象風景の中のふるさとは完全に消滅した。野次馬ついでに、半世紀の時の隔たりをたっぷりと味わう一日となった。

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