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エッセイ・コラム

ホームシェア ~その後

西川 武彦

 一年前に、高齢者が自宅の一部を開放して若者たちと住むという考え方、生き方に共鳴して、ホームシェアに踏み切った。それまで十余年、外国人家族に賃貸していたのが終わったタイミングである。築45年ほどの木造「古民家」は、人間でいえば後期高齢者で、よれよれだ。不動産屋は、このままでは借り手は見つからないという。シモキタの閑静な住宅地にあり、生まれ育った土地だから、手放すに忍びない。外階段で繋いだ一階を空き家にしておくのはもったいないし、治安上も望ましくない。
 その頃である。ホームシェアを推進しているNPOを知り、その勧めで、一階の居住部分に六畳間を四室作った。シェアメイト共用のリビング、DK、バストイレは既存のものが使える。ネットを使い、市価の二割安で募集。応募者は、スカイプで物件を観て、オーナーと面談しながら決める。さして苦労せずに住人が決まった。
 現在の住人は、ワーキングホリデイで来日した台湾人と韓国人、役者志望の日本人とマスコミ関係の二人を加えた計四人の二十代の女性たちだ。ノン・ジャパニーズの二人は日本語をかなりこなし、英語もできる。どうなることやらとのオーナーの心配は杞憂に終わり、四人は見事に交わって生活している。
 傘寿の筆者とは、年齢的には孫の関係といえよう。しかもなかなかの美人ときている。
 不良老人はちょっぴり007気取りであるが、お嬢様方は、ちょいハゲ爺と軽く笑顔であしらっているのかもしれない。仕事やバイトなどで出かける時間帯はまちまちだから、夜中を含めて四六時中、ドアが開く音、どたばた歩く音などが下の方から響いてくる。人気があるのが寂しくなくてよい。外出が少なくない老夫妻は、留守番がいる感じで心強い。
 別棟スタイルで住むとはいえ、たまに機会を作って交流する。暮れの忘年会はカラオケで、若い歌唱力に圧倒された。正月はお屠蘇を交わし、お節料理を楽しんだ。百人一首で大騒ぎ、ワインはあっという間に数本が空になった。台湾、韓国の世情も話題になって賑やかだ。お花見の予定も決まっている。3月末に印刷製本される筆者の掌編小説集の表紙イラストは、
最年少のMチャンに描いて貰った。
 彼らも勿論、スマホ族であるが、一人ぼっちで狭いマンションに閉じ籠るのでなく、同じ年代の仲間とシェアして、人間関係を学ぶ。お年寄りとも接して何かを知る…。
 昔と違って家族・親族関係が薄くなった今日、こういう高齢者との一種の共同生活で潤いを知ることが望ましいのではなかろうか。
 筆者は、航空会社を退いてから、日本人の海外でのロングステイを推進する事業を手伝っている。それが実ってか、今では毎年150万人以上のロングステイヤーがいる。
 所属する「ロングステイ財団」は、日本人の国内でのロングステイも啓蒙・普及せんと、全国古民家再生協会などと提携を始めた。ロングステイ向けの空き家・古民家活用もよいが、高齢者と若者のホームシェアも推進したいものだ、とご隠居は呟いている。

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