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エッセイ・コラム

電柱が消える

西川 武彦

 12月3日の朝刊で、カジノ解禁法案が国会で可決されたと一面で大々的に報じられた。それに隠れるように、同じ日の東京新聞は、東京都が電線を地下に埋める「無電柱化」を進める条例を作ることを決めた旨、小池知事の談話を付して、社会面の右下で小さく報じていた。
 それから小一週間経て、9日付の同紙夕刊では、「無電柱化推進法」が、参院で可決され成立した旨を、今度は一面で報じていた。議員立法だが、数回の国会で先延ばしされてきた法案だ。同じ日に参院特別委で可決されたTPP承認に並ぶように、一面で取り上げられていた。景観を壊し、交通の支障にもなる電柱・電線等の地下化を、二十年余り前から、なにかにつけて提唱してきた筆者は、思わず快哉を叫んだ。

 電柱は、全国に3500万本あり、IT化の急激な普及とともに、現在でも年7万本ペースで増えているという。東京23区でも、地中化は7%どまりで、ほほ100%地中化されたロンドン、パリ等の欧米大都市、香港、シンガポールなどアジア主要都市に比べて、大幅に地中化が遅れている。美しい国を大きく汚しているのだ。
 東北など近年の震災では、電柱が電線を絡めて道路に倒れ、救急車や消防車の活動を著しく妨げたことが報じられた。最近のニュースでは、埼玉県越谷市で12月4日に予定された駅伝大会が、コース内の県道脇の電柱に車が衝突、それが電線共々道路上に倒れて通行止めになり、延期になったと報じられていた。

 前掲の9日付夕刊では、無電柱化推進法成立の記事に並べて、無電柱化が進む東京都千代田区の都道「白山通り」で、工事に伴うイチョウ並木の伐採に対し、地域住民や商店街から保存を求める声が上がっていると報じていた。700mほどの工事区間は、東京五輪のマラソンコースに入るらしい。テレビ報道や応援、景観美化などの視点から、予定コースで無電柱化されていないのは、既にここだけという。この並木は、空襲で焼け野原となった一帯の復興の象徴で、樹齢80年近い都心の大木は貴重である等々が、反対派の意見という。
 小池知事は、撤去の必要性を丁寧に説明する一方、事業終了後に新しい樹木を植えるなど、緑の回復に努める重要性を指摘して、伐採に理解を求めているという。賛成である。
 同知事は、2013年来、自民党内で、無電柱化を推進する委員会の長を務め、これを推進する超党派の議連や全国市区長の会の発足に奔走してきたそうだ。

 無電柱化は、電線の埋設・共同溝を始め、コストの問題も支障になってきたが、安価な商品が続々開発されている。繰り返される道路の掘り起し・埋設等の無駄な土建工事を減らし、望ましい経済振興施策の主要な一つとして、無電柱化は積極的に進めることが望ましい。
 無電柱化推進法に基づき、国が作成する計画は、電柱の新設抑制や撤去に向けた目標や計画期間を盛り込み、都道府県や市区町村にそれらの地域計画を作るように求める。電力会社には、道路の新設・改修などに際し、既存の電柱を撤去し、新設しないことを促す。
 政府は、関連の施策を実施するために、財政・税制上の措置を講じねばならないことと定めている。11月10日が「無電柱化の日」に指定された。

「景観の構造改革」などと題して、無電柱化・無電線化は、乱造される醜悪な広告・看板・幟等々の建造物の撤去・改造・改修とともに、機会があるごとに論じてきただけに、筆に力が入り過ぎてきたようだ。初夢は電柱が消えて蘇った美しいジャパンかもしれない。

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