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エッセイ・コラム

木材の復権

森田 晃司

 世界の景気も、日本の景気もいま一つ盛り上がらないようです。先進国にとって経済成長は、もはや、さして重要ではないとも思えますが、明るさに欠け、方向感を見失っているようにも感じられます。
 そんな中で嬉しい動きがあります。木材の自給率の向上です。1955年には96%の自給率で、輸入は稀でした。ところが、73年には40%まで急落し、食料と同様の経過をたどっていました。効率の悪い第一次産業の生産は抑え、工業品の輸出で稼いだ外貨で、食料も木材もふんだんに輸入すればよいという考え方が支配していました。それでも食料は40%で踏みとどまりますが、木材は2002年には19%まで落ち込みました。世界に誇るべき日本の森林の荒廃が深刻化していました。ところが、20015年には33%まで急回復しています。ここのところの円安も輸入の減少に寄与しましたが、国土の67%を占める森林資源の有効活用を目指そうというさまざまな努力が実り始めています。ペレットやチップにした木質バイオマス燃料の利用も序々ながら広がり始めています。しかし、何といっても国産材需要の半ば以上を占めるのが建材用であり、木造建築の復権が国産材の本格回復のカギとなりそうです。
 富山県の桜町遺跡からは紀元前2千年の縄文時代の大型木造建築の跡が発掘されています。現存する世界最古の木造建築である法隆寺の西院伽藍に使われている同じ技法の高度な加工が施された柱が発掘されました。木造建築は縄文時代からの日本のお家芸なのです。
 お神輿などにも使われている高度な耐震技術は古代からのものです。最大の泣き所だった耐火性も技術の進歩で克服しつつあるようです。
 小池知事の就任以来、何かと物議をかもしている東京五輪ですが、主会場は隈研吾氏の設計による木造建築です。日本の伝統と最新技術を組み合わせた木造建築の新しい可能性を世界に紹介する絶好の機会となりそうです。その上、木材こそは地産地消がお薦めのようです。木材は伐採された後も地元で使われると一番丈夫で長持ちするとは、法隆寺の宮大工棟梁だった西岡常一氏の述懐です。
 建築材として、燃料として、和紙技術を応用した新用途として、或いはセルロース・ナノ・ファイバーという軽くて丈夫な夢の新素材の原料として、日本の豊富な森林資源が余すところなく活用される日を楽しみにいたしましょう。それが地産地消を基にした持続可能な社会に向けての重要な道程となります。

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