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エッセイ・コラム

法華経の世界 1.諸経の王

斉藤 征雄

 法華経は、紀元1~2世紀に成立した大乗経典である。中で「一切法は空なり」と述べているから大乗仏教の根本思想である空をベースにしていることは間違いないが、哲学的なことを理論的に説く経典ではない。
 散文調の本文、韻文の詩(偈頌)の部分からなるが、全体が物語になっていてその中に大乗仏教思想はもちろん一部小乗仏教の思想も含めて説いているといわれる。こうしたことから法華経は「諸経の王」として広く信仰されてきた。
 また、平易な人間味ある譬喩を多く挿入していることも法華経の特徴である。

 法華経の漢訳は鳩摩羅什(くまらじゅう)訳に代表される。そして中国では、随の時代に天台山に住んだ智顗(ちぎ)が法華経を基礎にして天台宗を開創した。
 日本にも早い時期に伝わり、聖徳太子は法華経の解説書である法華義疏を著したとされる。さらに平安時代には、最澄が中国で天台学を学んで帰り日本の天台宗を開いた。以後わが国の仏教の諸宗は殆んど天台宗を母胎として生まれた。中でも日蓮の開いた日蓮宗は法華経の中心思想を取り入れているといわれる。
 法華経信仰は、歴史的にみても日本人の中に深く生き続けている。

 法華経は、二十八の章(品)から成り、前半を「迹門(しゃくもん)」後半を「本門(ほんもん)」と呼ばれる。そして本門の最後の六章は後から付加されたものらしい。
 物語は、まず舞台設定から始まる。場所はマガダ国の首都王舎城郊外にある霊鷲山(りょうじゅせん)。そこでブッダが十万人もの聴衆を前にして説いたのを、弟子の阿難が「如是我聞(是のように私は聞いた)」と記した形式をとっている(大乗仏教の経典は殆んどがこの形式)。聴衆には多くの菩薩や修行僧の他に、神々も混じっていたという。
 冒頭ブッダは、「仏の悟りの智慧は極めて深く解り難い。一切の存在や現象の真実の姿(諸法の実相)を認識できるのは、仏と仏の間だけなのだ」といって説法を躊躇する。これに対して、弟子の舎利弗が三度にわたって衆生に説法することを願ってようやくブッダが決心する。これは、ブッダ自身が悟りを開いた時、梵天の勧請に応えて説法を決意した説話に対応させて、法華経の内容に重みをつけたと解釈される。
 以下、法華経の内容の中から ○迹門の中心である「一仏乗の思想」 ○本門の中心である「久遠の本仏の思想」 ○後に付加された「観音経」及び諸仏、諸菩薩、について次回以降述べることとしたい。

(仏教学習ノート30)

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