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エッセイ・コラム

ブラブラてくてく東京マラソン(その三、品川~日比谷)

池田 隆

 東京マラソンの日比谷・品川間は往復区間である。第二日目のルートはその往路を省略し、折返し点の品川から日比谷までの復路とする。今回は寺院や旧跡を訪ねながら歩いてみよう。
 JR品川駅前から北へ数百m進み、車通りの少ない並木道を左に折れると東禅寺の山門につき当る。開国当初に英国公使館になった寺である。攘夷派の水戸藩浪士に襲撃された事で知られる。
 鬱蒼とした境内に三重塔が建っている。喧騒な国道から徒歩三分の所とは思えない静寂さである。本堂裏側には立派な池苑があるが、一般には公開されていない。
 小道の入り組んだ住宅街を抜け、泉岳寺の前に出る。忠臣蔵の人気でいつ来ても賑っている。大石内蔵助などの墓を拝み、早々に立ち去る。
 付近に住んでいた明国人の名に由来するという伊皿子の坂を上り切り、高輪台の尾根道を越えると魚籃坂の下りとなる。赤い山門の魚籃寺を過ぎ、狭い路地を右に折れると奥一帯は寺、寺、寺である。街の説明板によると、今は「三田」と書くが、元は「御田」と書いたという。たしかに近くの小学校の名にその字が付いている。
 幽霊坂を上り、尾根道に戻ると亀塚古墳公園につき当る。平安時代にはこの尾根道が東海道であった。更級日記の作者も京に向う途中、ここに在った竹芝寺でその由来を聴き、詳しく書き残している。
 公園の隣は幕末に仏国公使館が在った済海寺である。以前はすぐ先の真下まで海が迫っていた。今では高台の寺を下に建つ高層ビルが見下ろしている。
 緩やかな尾根道を下り、その先の高台に聳える慶応大学の構内に南側の正門より入り、福沢諭吉が講義した三田演説館を見学する。東門より飲食街を抜け、東京マラソンコースの日比谷通りへ出る。
 東京タワーを見上げながら芝公園沿いを進み、増上寺の三解脱門より境内に入る。豪壮な本堂の背後にある徳川家霊廟を訪ねる頃に足もやや重くなってきた。最後は一路一直線に日比谷交差点へと向う。

(第二日、一万一千歩、二時間強)

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