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エッセイ・コラム

ブラブラてくてく東京マラソン(その一、新宿都庁~四谷見附)

池田 隆

 東京マラソンのルートは十字型で、日比谷より東西南北に約七キロの四地点を結ぶコースである。スタートが西端の新宿都庁前、ゴールは東端の臨海副都心にあるビッグサイト、南端の品川と北端の浅草が折返し点となる。
 このルートを四回に分けて歩く計画を立てた。ただし往復区間は片道のみとし、適宜迂回し寄り道もする。初日は新宿より日比谷までのコースである。都庁の展望台へ開門と同時に上る。西に富士、東にスカイツリーなどの都心を見渡し心が弾む。早々に都議会前の広場に下りる。周囲に並ぶルネッサンス風の裸像や聳え立つ都庁を欧化時代のシンボルと後世の人々は呼ぶことだろう。
 ここから靖国通り、外堀通りと辿るのが本来のコースである。だが普段は交通量が多い。公園をつなぐ迂回ルートを選ぼう。甲州街道に出て、数日後に観桜会が催される新宿御苑へ。三々五々と入園する花見客の列に加わり、広い芝生の中央に出る。地面すれすれまで花枝を伸ばした周囲の桜に息を飲む。池面に映る花影も情緒がある。やや心残りだが千駄ヶ谷門より出て、明治神宮外苑へ。
 東京体育館横の並木が若葉を出し始めている。国立競技場は取壊され、白い工事用板で囲われている。四年後に完成予定の「木と緑」をコンセプトとする新競技場が楽しみだ。
 絵画館前では「鷹の松」や「ナンジャモンジャ」の説明板を読み、権田原交差点に出る。東宮御所に沿うユリノキ並木の安鎮坂を歩いていると、皇宮警察官が私に軽く会釈してくれる。南元門より鮫川橋坂を上ると赤坂迎賓館の正門前に出る。恰もパリーかウィーンの宮殿を訪れた気分になる。
 紀ノ国坂の食違見附を渡り、顔を上げるとニューオータニの先に新築の赤坂プリンスが見える。最上級の客室は一泊六十万円とのこと、まさに今の格差社会の片方を象徴する代物だ。上智大学前で真田濠の土手に上る。松や桜に挟まれた遊歩道のベンチで休み、歩数計を覗くとここまで一時間半、九千歩であった。

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