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エッセイ・コラム

町づくり雑話

西川 武彦

 新年早々、朝日新聞に小さな朗報が載った。1月9日の朝刊である。「下北沢の商店街『分断』」の見出しで、「都市計画道の一部 優先整備から除外」と題していた。

 十年前、小田急線の踏切撤去と立体交差・地下化事業などに連動して、東京都(世田谷区)は、道路整備という名目で、シモキタの繁華街や住宅街の一部を縦断する25m幅の道路を新設すると発表した。その界隈と環七を結ぶ車道を造るというのだ。距離にして1キロほど。車なら、五分も遠回りすればことが足りるのに、高度成長時代のばらまきに似た安易で短絡な発想である。

 下北沢の繁華街は、小田急線と井の頭線が交差する駅の南北各100mほどに密集している。幅数メートルの道が交雑して迷路のような一帯には、銀座・表参道とは一味違う独特のクールさが漂う。個性的なカフェ、バー、レストラン、美容院、劇場、ライブハウス、古着屋、骨董品店……。ヨーロッパの大都市にも、同じような、一見猥雑だが魅力的な町が散在して、地元の若者は勿論、内外からの観光客で賑わっている。
 それに似たクールなシモキタが、太い車道で分断されれば、町は分断されて死んでしまうではないか……。片や補償金目当てなのか賛同する一派もいて、町は賛否両論で湧いた。

 住民たちを中心とした抗議団体が生まれ、団結を図り、紆余曲折すること十年余り。東京都を相手にした行政訴訟を起こしていたさなか、今般東京都が、平成28年4月からの十年間、優先整備路線から外すと決定したのだ。双方から和解案が出されていたそうだが、地道な住民運動の快挙である。
 裏には、自民党系でない保坂展人世田谷区長が、昨年4月の区長選挙で、この区間が入る
補助54号線の二期、三期事業の凍結を検討する「下北沢まちづくりビジョン」を表明し、二期目の当選を果たしたことがあろう。この間、区は度々区民からの意見を募り、筆者も二度ばかり葉書で投稿した。
 今度の道路計画延伸には、まずは快哉を叫びたいが、地下化される小田急線の地上跡地についても、緑化が期待されるなか、なにかと怪しく揺れていて予断を許さないようだ。冒頭の新聞記事に載った道路工事の対象地の写真には、狭い路地を電柱・電線が蜘蛛の巣状に覆って見苦しい。これらの地下化もなんとかせねば……。今暫く生きながらえて、ささやかながらご意見番を務めねばなるまいと、ご隠居は呟いている。

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