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エッセイ・コラム

孫へのメッセージ ~隠居の呟き

西川 武彦

 暖かい日が続いた11月早々、郵便局からの年賀状購入の案内が、師走が近いことを知らせてくれた。服喪の葉書も届き始めた。亡くなった知人、友人、親戚の顔を思い浮かべながら、枚数を決めて発注する。今年はどんなデザインの年賀状にしようか…、心が弾む。
 心が弾むといえば、正月の家族の集まりでは、孫たちに年賀状替わりのカードを贈ることにしている。夫々の顔を思い浮かべながら、二つ折りのカードを求めるのが年末の楽しみの一つだ。
 幼い女孫たちは別にして、小学生の男の子二人には、数年前から「じーじ」のメッセージを短く綴っている。「じーじ」なりにその都度考えるのだが、どうやら毎年同じらしい。今年の正月もしかり。カードを開いた二人が破顔一笑、大声で叫んだ。
「また同じだよ、じーじ!『からだもこころも大きくなってください』だって……」
 自分のことしか考えない小さな人間、特に若者が増えた昨今の世の中を憂えるご隠居が、孫たちにはそうなってほしくないという願いをこめているのだ。
 男孫の一人はドバイで、弟の方はロンドンで生まれた。小学校に入る年頃までロンドンのインターナショナル・スクールにいたから、少しは英語も分かる。帰国子女の両親に育てられているから、小さな国際派だが、帰国してからは日本の型にはまった教育を押し付けられているのではなかろうか。日本語が遅れているので、上の孫は近所の公立中学に進学するらしい。彼は3月31日生まれの早生まれで、そういうハンデイもある。今年の夏休みに、ロンドンに里帰りして、英国人の友達に再会したら、〝You are small″とか言われたらしい。「やっぱり大きくなりたいと思った」と、言っていたから、「じーじ」のメッセージが効いているのかもしれない。もっともこれは身体のサイズの問題で、大きな心というのは成人してからでないと理解しがたいだろう。それまでご隠居が生きながらえるかは疑問だが、今年も同じことを伝えよう、今度は日本語と英語で…、とご隠居は呟いている。

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