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エッセイ・コラム

ミンミンゼミ・オニヤンマ・アオスジアゲハ

大平 忠

 連日の猛暑続きで、日中は外へ出られず運動不足になった。そこで、7月末から早朝5時頃に起き出して散歩をしている。家から10分ほどのところにある旧東海道には両脇に緑も残っているので歩いていて気持ちがよい。歩いて気が付いたのは、例年に比べて蝉の声が賑やかなことである。喧しいという言葉をふと思い出した。アブラゼミの声ばかりではなく、ときに他の違う蝉の声が混じるときがある。何蝉だろうかと気になっていた。
 今朝のことである。路の端に蝉が一匹落ちているのを見つけた。近づいて見ると、羽が透明である。クマゼミかと一瞬思った。温暖化によりクマゼミが西から東へとやってきていると聞いていたからだ。しかし、よく見るとクマゼミほど大きくない。ところどころに斑点がある。おっ、ミンミンゼミではないか。子供の頃見た記憶はあるがそれ以後見たことがない。じわじわと感動が湧いた。
 ミンミンゼミだけではない。数日前にはオニヤンマを見つけた。弱って飛べずに路傍でうごめいていた。ここ数年その姿を見たことがなかった。本当にオニヤンマかどうか訝しい思いでよく見たが、やはり本物だった。一瞬興奮した。黄色の縞と大きな緑色の目を持つ美しいトンボの王様である。子供の頃、追いかけてもどうしても捕れずに友だちが捕まえたのを羨ましく眺めたことがあった。胴体をつまんで散歩を中断して家に持ち帰りベランダの鉢の緑の上に置いてやった。夕方見ると姿が見えない。元気になって飛んで行ったのであろう。ほっとした。
 昨日は昨日で、散歩から帰ってくるとマンションの庭の山椒の木にアオスジアゲハがまつわるように飛んでいた。10年前まではこの山椒の木によく来ていたのだが、このところ見ていなかった。隣の家の主人もこのアオスジアゲハがやってくるのを楽しみにしていて、二人でなぜ山椒の木にやってくるのか話し合ったことがあった。

 この数日の間に、トンボの王様に次いで、蝶の女王、おまけにミンミンゼミとの出会いもあった。快挙である。猛暑のために仕方なく始めた早朝散歩のお蔭である。苦の中にも楽しみありと、ちょっぴり自ら慰めている。

(平成27年8月11日)

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