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エッセイ・コラム

ベーゴマ遊び

西川 武彦

 現役を退いて家にいる時間が増えると、近所で子供たちが遊んでいないのに気がついた。そもそも子供が少ないのだ。朝夕の通学・通勤時間帯を除けば、歩いて5分の商店街に着くまでに出会うのは、高齢者ばかり。午前と午後に出かけると同じ顔ぶれに会って、なんとなく照れくさい感じに…。
 歩ける距離に三つあった小学校が来春には一つに併合され、筆者の母校「東大原小学校」は、「下北沢小学校」として生まれ変わる。寂しい。閑話休題。
 疎開先から、焼け残ったシモキタの自宅に戻ったのは70年前。受験のための塾もテレビもパソコンもない時代だ。ご近所の悪がきと遊びまくった。野球、ベーゴマ、釘刺し、メンコなどである。ご近所のコンクリートの壁には、ベーゴマを鋭くするためにすり削った痕跡が残っていて懐かしい。
 春休みに孫の男の子二人と遊んだ。小学校高学年の悪がきである。海外生まれで英語は多少出来るが、国語が遅れている。中学受験は見送るらしい。それをよいことに体力作りと遊びに専念。サッカー・テニスで走りまくり、家ではゲームもやるが、ベーゴマ、剣玉に熱中している。後者二つは、「じーじ」が教えたのを気に入っているようだ。
 どちらも筆者の方が上手かったのだが、今回は、ベーゴマは6年生に完敗、後者は4年生と辛うじてドローだった。彼らは身体が大きくなり、知恵もついてコツを覚えた。片や「じーじ」は、筋力、視力、反射神経が萎えたのに違いない。
 例えばベーゴマ。硬く縮こんだ指でやっとこさ鋳鉄製の独楽に糸を巻き、昔のバケツに厚手の布を被せた奴にかわる、プラスチック製の、直径30㎝ほどの円く窪んだ土俵になんとか投げ込む。動きが緩やかだ。一瞬先に小学生の手から離れて、勢いよく飛び込んでいた敵の独楽にふたつきで場外に放り出されてしまった。何度やっても勝てない。「ちょっと貸してみて…」などと教えられる有様だ。
 やはり中学受験しない隣組の仲間とこれらで遊んでいるらしい。屋内でやるようだが、伝統が引き継がれたようで、なにやら嬉しい気分だ。実技では勝負あったが、知識ではまだ負けたくない。次回お相手をして頂けるなら、「ベーゴマとは、平安時代に京都辺りで始まったといわれ、バイ貝の殻に砂や粘土を詰めてひもで回したのが始まりだ。関西から関東に伝わった際に、『バイゴマ』が訛って『ベーゴマ』となり、その後、鋳鉄製のものに取って代わられた。一番薄いのは『ぺチャ』という…」云々と教えてやろう。否、『ペチャ』は差別語でまずいだろうかと、隠居は呟いている。

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