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エッセイ・コラム

800字エッセイの書き方(その二)

池田 隆

「何でも書こう会」の合宿研修会では、(その一)で紹介した「800字エッセイの書き方」を、チェックリストとして実際に試すことになった。
 O氏ご自身の提案で、彼の競馬に関する作品を題材として書き直す。元の作品と書き直し後の作品を下記に示す。
 書き直しに当たって留意した主な点は、

  • 有馬記念とジェンティルドンナという二つの主題のうち、後者ひとつに主題を絞る。
  • 競馬場に足を運んだことのない者を読み手として想定する。
  • 時系列に従った文章構成とする。

 である。両者を比較すると、書き直し後は、確かに平易な読みやすい文章になる。その一方で論理的過ぎる筆運びは、作者の生の感動を伝える点で文章の勢いを削いだきらいがある。
 この書き方に従えば、優等生的な作品を書くことは、さほど難しくない。それが文章力の基本となることも間違いない。
 問題はその先である。
 若い頃のピカソの写生画は見事である。だが、われわれの頭に強く刻まれる印象は、あの狂ったようなキュービズムの絵である。文章も然り。基本の文章力を備えながらも、あえて基本を破り、いかに狂うかである。「狂」が読み手に強い印象を与える。
「狂」には天賦の才が要る。私は狂えそうにないが、狂える人は大いに狂ってほしいものだ。

《O氏の元の作品》
2014 有馬記念 ジェンティルドンナ讃

 年末の重賞レース、見逃せない競馬が有馬記念だ。この馬券を取って年を越すのが競馬ファンの夢。昔は中山グランプリと言っていたが、理事長を務めた有馬の殿様の功績を讃えて有馬記念となる。このレースの特徴は出走馬をファン投票で決めることだ。馬券で儲けたり、血統に惚れたり、それぞれ自分の好みの馬に投票する、そして上位10頭が出走権を得る。

 ジャパンカップ(以下JCと記す)という世界の名馬が集まる競馬がある。JCで3歳牝馬のジェンティルドンナが、ゴール前、牡馬と競り合って優勝した。ジェンティルドンナとはイタリア語で「貴婦人」。牝馬と牡馬が競り合って牝馬が勝つことなど無く、競馬会の常識を覆した。その時から私は貴婦人に注目する。桜花賞、オークス、JC2度、天皇賞、海外の重賞レースでも優勝し最強牝馬と評価されたが、今年は国内で3戦し、優勝はなく4戦目が3度目のJC挑戦となった。
 来年は繁殖牝馬になることも決まっており、ご祝儀馬券の検討を始めた。するとプロの予想屋の多くが貴婦人に◎や○本命対抗なのだ。プロが人気にすると、実力を出し切れず敗れることが往々にしてある、馬券経験則だ。馬の出来は素晴らしかったが、馬券には手をださず観賞に徹することにした。結果は優勝できなかった。厩舎も解せない結果に、有馬記念の出走を決め調教を始める。有馬記念の馬番は4番となった。

 有馬記念、貴婦人馬券を考察する。①調教が軽めで体調が良い②馬番が良い、4番枠なので楽に前集団で競馬が出来る、③騎手変更が良い、騎手は2度目の騎乗で馬の実力を知っている、④人気が下がるので配当に期待が持てる。これだけ条件が揃うと馬券は買いだ。ゴール前最後の直線で馬の実力を出し、グイグイ抜け出し優勝と期待した。レースは最強牝馬の真骨頂を示して優勝した。ちなみに私の前回の有馬記念勝利馬券は、1971年のトウメイ以来だ。
 お祝いに12月30日「宮川」の鰻重の出前を家族で楽しんだ。

《書き直した作品》
「ジェンティルドンナ」に乾杯

「ジェンティルドンナ」とはイタリア語で「貴婦人」。それが日本の名馬の名前につけられた。ジェンティルドンナは3歳牝馬のとき、ジャパンカップ(JC)で牡馬と競り合って優勝した。
 その時から俺は彼女に惚れ込む。案の定、桜花賞、オークス、2度目のJC、天皇賞、海外の重賞レースと勝ち続け、史上最強の牝馬と評価される。
 ところが今年に入り3戦続けて優勝を逃し、来年は繁殖牝馬になることに決まった。そのような中、3度目のJCを迎えたが、プロの予想屋は昨年までの彼女の実績を買い、本命の◎や本命対抗の○をつける。プロが人気にすると、実力を出せず敗れることが往々にしてある、馬券経験則だ。
 馬の出来は素晴らしいが、馬券を買わず、観賞するにとどめる。好悪の感情を捨て、勝負に徹するのだ。結果はやはり俺の予想通りだった。
 厩舎が次の有馬記念での出走を決め、急いで調教を始めた。これがジェンティルドンナにとって最後のレースとなる。馬番は4番。
 有馬記念は年末恒例の重賞レースだ。競馬ファンにとって、この馬券を取って年を越すのが夢。このレースの特徴は出走馬をファン投票で決める。馬券で儲けられそうな馬や、好きな血統の馬など、ファンはそれぞれの理由で好みの馬を選ぶ。その上位10頭が出走権を得る。
 俺は彼女の馬券を買うべきか、否か、真剣に考えた。

  1. 調教が軽めで体調が良い。
  2. 馬番が良い、4番枠なので楽に前集団で競馬が出来る。
  3. 騎手変更が良い、騎手は2度目の騎乗で馬の実力を知っている。
  4. JC敗戦で人気が下がり、配当に期待が持てる。

 これだけ条件が揃うと「買い」だ。ゴール前の直線で、彼女がグイグイ抜け出し優勝する様子が頭に浮かぶ。
 本番のレースも俺が思い浮べた通りの展開となり、ジェンティルドンナが見事に有終の美を飾った。前回の有馬記念勝利馬券は、1971年のトウメイだ。お祝いに「宮川」から鰻重の出前を家族で取り、ジェンティルドンナに乾杯した。

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