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エッセイ・コラム

健康積立預筋

金京 法一

 当て字ではあるが、字を間違えているわけではない。武蔵野市が六十五歳以上の老人を対象に催している体操教室の名称である。週二回で、十二週間続けられる。数週間の休みの後、再開される。もう七年ぐらいやっている。

 スポーツクラブで行う毎回一時間半の体操である。最初の三十分くらいは椅子に座って筋肉をほぐす運動をやる。次の三十分くらいはリズム体操と言って手足を音楽に合わせて動かす運動である。これがなかなかうまくゆかない。手と足を同時に異なる動かし方をするのが難しく、手足の動きがうまくリズムに乗れないのである。最後の三十分はストレッチ体操で、マットレスに横たわって筋肉トレーニングをやる。一時間半の軽度のトレーニングではあるが、不思議と体が楽になる。

 インストラクターは三十歳台とおぼしき美人で、スタイルが素晴らしい。良く透る声で、掛け声をかけたり、拍子を取ったりする。孫に近い年齢の女性に叱咤激励されるのである。生徒の八割は女性である。同年齢でも女性のほうが体が柔らかいのであろうか、インストラクターの指示を忠実に実行しているようである。こちらは体が硬く、四苦八苦である。

 参加者の費用負担は十二週間で六千円であるが(一回当たり二百五十円)、市のほうからかなりの額の補助が出ているようである。こういったスポーツ教室の相場は一人一回につき千円から千五百円と思われるので、補助金も相当な額であろうと推定される。手厚い住民サービスに見える。しかし市の側の狙いは違うところにあるようである。

 いずれの自治体も老人の医療費の負担に頭を痛めている。平均寿命も年年延びている。当然老人の医療費負担も増えてゆく。病気にならずに早く死ねとは言えないのである。そこで考えたのが、なるべく病気をしてもらわない方策である。体操教室で体を鍛え、なるべく病気にならないようにすることで、自治体側の医療負担をできるだけ軽減しようというのである。

 実際どれだけの効果があるのかは分からないし、市の側も詳しくは把握できていないようであるが、なかなか気のきいた企画ではある。

 今週も美しいインストラクターの肢体を見ながら、筋トレに励んでいる。

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