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エッセイ・コラム

可笑しな付き合い

西川 武彦

 喜寿を迎えた今でも、天気が許せば週二回はテニスを楽しんでいる。ダブルスだ。自転車で15分ほどの公園に区営のオムニコートがあり、そこを利用している。コート代は二時間で2400円。現役を退いてから、十年余り続いている。連れ合いには「早朝出勤」と称している。
 最大十名ほどの仲間だが、可笑しなことに、お互い何をやっているかほとんど知らない。最年長は、男性では筆者で77歳、女性は今年75になるという元スナックのママさんだ。
 三十代、四十代、五十代、六十代の男女で、多士済々。顔と名前が辛うじて分かる程度で、相手が何様なのか、詳しくは存ぜぬ。著名国立大の教授、ITの世界で活躍する男、特許で食っている男性、ファッション界でそれなりに知られた人、etc.
 二人の言動からそれらしき関係と思われる男女がいないでもない。勘繰りだけで、何もないのかもしれない。

 日の出が遅い冬を除き、朝7時から9時までフルにプレイする。
 管理人がいる。マネジャーである。コートの予約、新しいボール、出欠管理など。毎度彼に平均して片手、つまり五百円を払う。コート代とボール代だ。極めてReasonableで、年金頼りの老人には嬉しい。

 活動を称して「朝練」というように、最初の一時間弱は、ショートショートから始まって、ボレーやスマッシュの練習、最後はサーブ&レシーヴと激しい。ボールは常に新しい。遊びでなく真剣なのだ。後半の一時間はダブルスの試合。
 筆者は省エネで、三十分は遅刻する。二時間は体力的に厳しいのだ。高齢の筆者とママは待機時間が長いので、若い仲間の球を追いながら、それなりの男女の会話を交わす。

 銀杏、欅、桜、梅、杉、松など緑溢れる公園での朝の二時間……、夫々の生活のなかで、夫々のスタイルで定着しているようだ。
 本人の体力的劣化とか、連れ合いや親のケアなどで、一人二人と落ちこぼれるが、口コミなのかそれなりのメンバーが補充されて続いている。

 十年前はこちらが指導権をもって、サービスやストロークで一言加えた相手に今ではまったく敵わず、明らかに手を抜かれている感じだ。「そこにいちゃダメですよ…」などと声が飛ぶ。視力、筋力、反射力、持久力、すべて劣化しているから仕方あるまい。敵も同じように彼らなりにおとろえているのだろうが…。
 目下の心境では、なんとか85歳までは続けたいと願って心身を鍛錬しているが、いかがなものか……。

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