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エッセイ・コラム

4年ぶりのタイ

大平 忠

 この1月末、タイへ行って来た。4年ぶりである。赤シャツのデモが激しいとは新聞、テレビで報道されていた。しかし、タイを熟知している先輩は、バンコックの中心街に行かなければ大丈夫と言う。実は4年前に行ったときのことである。タクシン派が当時は野党で、黄色いシャツを着てデモをやっていた。ある日の夕方、このデモ隊に私の乗っている車が巻き込まれた。ところが、デモが終わって帰宅の途中だったせいか、ピクニックの帰りのような感じで危険をまったく感じなかった。そこで今回も報道の割にはたいしたことはないだろうと多寡を食って行ったのである。
 夜、空港着。翌日は1時間余りハイウェイを車で走ってアマタナコン工業地帯の日系工場へ見学に出かけた。駐在の日本人の皆さんは、政争の影響よりも洪水の方が心配ですという。2011年は、洪水のためGNPの伸びがほとんど止まってしまった。2012年は7%の伸びだったが、昨年も洪水の影響がかなり出て伸びは2、3%らしい。なるほど、訪問した工場も門前まで水が来た跡が残っていた。
 3時頃仕事が終わった。バンコックへ戻る途中、情報によるとデモ隊は今の時間帯はいないという。そこで中心部へ行ってみた。車が夕方のラッシュで動かなくなった。仕方なく車を降りて高架線のBTSの駅に向かった。その途中で、デモ隊が古タイヤで築いたバリケードとか、アジ演説をするステージを見ることができた。アジ演説の合間にはこのステージでバンドが演奏してデモ隊も楽しんでいるそうである。報道では銃弾も飛んだりしたというが、どこかのどかな感じがしてならない。軍隊が動かず静かにしているせいもあるのだろう。
 今回会った日本人の人々は、洪水や政治の混乱はあっても、タイの将来は明るいと楽観していた。常住の日本人は5万人、出張者、観光客を含めると10万人の日本人が滞在しているとか。6,7年前に聞いた数字は、確かこの6割の数字だったと思う。タイへの進出はまだまだ進んでいるという。訪問した企業は、今後はタイの他にインドネシア、ベトナムの工場も拡張する計画だとか。この元気なことは嬉しい半面、日本国内はいったいどうなるのだろうか。
 アベノミクスは健闘しているが、海外拠点はどんどん拡大しよう。第三の成長の矢がよほどしっかりしないと国内産業、特に製造業の発展がどうなるのか心配だ。タイの緑豊かな木々と色鮮やかな花々を眺めながら、身が引き締まる思いがした。

(平成二十六年二月十三日)

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