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エッセイ・コラム

「年賀状 消えた記憶が 甦る」

西川 武彦

 今年も沢山の年賀状を頂いた。現役を退いたとき、業務上のお付き合いだった方々との賀状交換は、退任の挨拶状を潮時に大半が終った。数のトータルでそれほど減っていないのは、第二の青春で出会った方々との賀状が加わったからだろう。
 仕事を通して知り合った方でも、妙に馬が合ったり、趣味でご一緒した皆さん、あるいは、繋いでおけば第二の人生で役に立つかもしれないと判断した皆さんとはそれが続いている。それらの場合も、向こう側の事情で先方からの賀状が途切れたり、あるいは、日頃の接触が稀になると、いつの間にか賀状も途切れることになる。
 ママさんたちからの艶っぽい賀状もなくなったし、何らかの謂れがあって付き合っていた女性の皆さんからの賀状もほとんどが絶えた。賀状がポストにドスンと入る音を待ってとりに行き、危ないのは家族の目に触れる前に抜き取ったスリルが懐かしい。

「今年で賀状は最後にします…」などと数年前に書いてきた人から、「今年もよろしく…」などと綴ったのが届くこともある。高齢化に伴うなんとか症状なのだろうか。
 親族、知人、友人たちが高齢者入りした65歳頃からは、服喪中で欠礼しますとの葉書がめっきり増えてきた。それらの多くは本人の父母に関わるものだったが、古希を過ぎる頃からは、家族からのが混じり始めた。ご本人は天国へと旅立ったのだ。

 賀状の書き方も時の流れの中で変る。万年筆での縦書き・手書きの時代、それに横書きが混じり始める、ボールペンや筆ペンが加わる、パソコン書きの登場、それらが混合したもの、エトセトラ。デザインも市販の版画、手作りの版画、印刷した挿絵、写真、ネットからコピーしたイラスト…。様々である。書き手の人柄、生き方、暮らし方などが浮かび上がって興味深い。
 筆者はワードをかなり自由に使えるようになった頃から、文字の大きさ、色、フォントなどを選び、パソコンで創っている。手短かに近況を文章と写真で伝える。相手により、一言二言を万年筆の手書きで添える。相手の住所氏名も手書きの横書きだ。個性的な字だからそれだけで差出人が分かると言われている。
 今年のイラストは黒地をバックに赤ワインをたっぷり注いだ丸いグラス。アルコールを嗜むなら、あなたには赤ワインが一番よろしい、という主治医のご指示を忠実に賀状に記して近況を伝えたのである。

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