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エッセイ・コラム

福作用

三春

 昨年11月の健診で「緑内障」とのご託宣を受けた。肝臓ならば心当たりもないではないが、眼は想定外だった。咄嗟に母のことを思い出した。母は30代半ばに、錐で刺されるような眼の傷みと激しい頭痛に襲われ、緑内障と診断された。「不治の病、失明の恐れ」と家じゅうが大騒ぎになった。ある段階で手術を選び、失明には至らなかったものの、その後も激痛に転げ回ることがあり、そんなときは非常時限定の強烈な点眼薬をさしていた。一時的に何も見えなくなるそうで、暗い部屋にひっそり横たわっていた母の姿を覚えている。子供心にも恐ろしさが身に沁みた。そんな厄介な病を引き継ぐとはなんたる不運かとしばし呆然とした。
 とはいえ、あれから50年もたつのだから医学はもっと進歩しているはずだ。インターネットで調べたところ、悲しいかな今も失明原因の第1位に君臨! 失われた視神経は決して回復しない。まさに「一生もの」の病らしい。
 最近の大規模調査では、40歳以上の日本人に緑内障患者が5%(20人に1人!)発見された。ところが、自分が緑内障だと調査前から知っていた人は、そのうちの一割に過ぎない。つまり、1000人いれば50人が患っているのに、45人はそれと気付かずに過ごしているのだ。
 原因もタイプも症状もさまざまあるようだが、対策としては、目のなかの循環液である「房水」の流れをよくして眼圧を下げ、視神経の圧迫を抑える、てっとり早く言えば「目詰まり解消」、「ドブさらい」である。
 処方されたのはトラバタンズという点眼薬、就寝前に1滴でよい。副作用もあるというので注意書きをよく見たら、「瞼の黒ずみや睫毛の異常(長く太く濃くなる)が起こる怖れ」とある。おや、アイシャドウやマスカラが要らなくなるのか、フクはフクでも「福」作用? 兄は、「よ~し、頭に振りかけるぞ! 10本もらってこい」と、喜色満面だ。

「先生! 副作用がもっとキツイのに変えてくれませんか」

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