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エッセイ・コラム 政治・経済・社会

復興への工程表

野瀬 隆平

 震災の被害を受けた各地で、本来ならば4月から社会に出て活躍する筈だった多くの若者たちが、職に就けずに途方にくれている。テレビでそんな報道を見ると心が痛む。就職の内定を与えていた企業も打撃を受けて、雇用を維持する見通しが立てられずにいる。何とか就職先を見つけようと懸命に仕事を探しているが中々見つからない。

 一方、被害を受けた地方の町の惨状を眺めると、そこには膨大な仕事があることが分かる。大きく破壊された町の復興という仕事である。被害の後片付けをしたあと、新たな計画に基づいて町を再建しなければならない。地域の人たちが安心して住める町を再構築するという、重大な使命をおびた仕事だ。

 このような仕事を、働く場を求める人たちに、どのような形で与えられるかである。安定した収入が保障される雇用にいかに結びつけるか、どのように組織的にまとめ上げるかである。対象は就職が内定していた若者たちだけではない。今回の災害で、仕事を失い新たな職が見つからない多くの人たち全てに係る問題である。国が復興庁のような組織を作って推進するのも良いが、少なくとも具体的な作業を実行するのは、民間の企業、例えば建設会社など何社かが会社あるいは財団を作ってこれに当たる方法も考えられる。お役所より効率良く仕事が進められるかも知れない。政府の出資あるいは融資は当然求められるが、運営は民間企業が行うというアイディアも検討されて良い。

 仕事に従事したい希望者を募り、応募者は自分の得意分野(特技や資格)を申し出て、最大限これらを生かすようにする。経験のない仕事に就かざるを得ない場合もあろうが、そこは仕事をしながら訓練を受ける(OJT)と考えて努力してもらう。こうして訓練され現場で育てられる人たちは、必ずや将来どこの企業にいっても、有用な人材として歓迎されるであろう。全国からボランティアを募って、無償あるいは実費ベースで仕事に参加してもらうのも良いだろう。また、インター・ネットが発達した今日、被災地の近くに移り住まなくても、仕事に協力することも可能だ。

 新たに構築すべき町の青写真を作り、どのような工程でその作業を進めるのか、具体的に目に見える形で、被災者をはじめ関係者に示すことこそが、実質的に元気と勇気を与える最善の方法である。先ずは手始めに仮設住宅の建設が必要だろうが、将来を見据えた大胆な発想に基づく安全な都市計画が求められる。このためのアイディアを広く内外に求め、場合によっては、デザイン・コンペを世界的な規模で行っても良い。

 さて、最大の問題はその財源である。民間の各社が出し合う資金だけでは到底賄えない。国からの支援が必要であることはいうまでも無い。ではどうやって調達するか。小手先の補正予算などではとても間に合わない。どうしても国債に頼らざるを得ない。赤字国債を回避したいと考えていたところ、ここで国債の発行に安易に頼るのはいかがなものか、といいう議論もあろうが、国難ともいえるこの時期、割り切って考えるしかない。赤字国債と考えると抵抗があるが、「復興国債」として発行すれば、仮にこれまでより安い金利でも多くの資金が集まるだろう。広く海外に資金を求めても良い。世界的に日本の置かれた立場に理解がある今ならば可能だ。復興用の建設資材が救援物資として無償で得られれば更に有難い。

 これまではマクロ経済的にみて、日本国内の需給ギャップがデフレと不況の原因といわれて来た。災害の起こる前に、私は景気回復のためには、禁じ手といわれる政府紙幣の発行(日銀の国債引き受け)をしてはどうかと主張してきた。しかし、多くの生産設備が壊されて農工業の供給が減少し、その一方では復興のための膨大な需要が見込まれることで、30数兆円あるといわれる需給ギャップは、大幅に縮まると予測される。従って、このような局面で日銀引き受けの国債を発行すると、ハイパー・インフレを招く可能性もある。慎重にインフレの動向を見ながら、金融政策を検討する必要がある。

 いずれにしても、先ずは支援する側の人たちが沈滞ムードに陥ることなく、従来どおり、いやそれ以上に活発に経済活動を行い、日本の経済を活性化することが肝要である。

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