作品の閲覧

エッセイ・コラム 体験記・紀行文

オーストラリア雑感

金京 法一

 オーストラリアのシドニーにダブルベイという地区がある。しゃれたブティックや画廊、土産物屋やレストランが立ち並び、東京の原宿や青山六本木といったところである。何軒かの店をひやかして、オープンな感じのイタリアン・レストランに入り、窓から入る海の風を感じながら新鮮な魚介類を肴にシャードネー(白ワイン)などを飲んでいると、オーストラリアは本当に天国だと思えてくる。

 筆者が駐在していた80年代後半、オーストラリアは不動産バブルの真最中であった。大きなビルやアパートが次々と建てられ、それらが投資家の間で転売されてゆく。日本からも歌手の千昌夫氏はじめ多くの投資家が乗り込み、地元の新聞紙上を賑あわせていた。彼らはレヴァレッジという手法でもとでの数倍の資金を銀行から借り、物件を買い、値上がりを見て売り抜け、その資金を次の物件に投入するということをやっていた。なにしろ不動産と株式で無名の投資家が億万長者として次々と登場し、オーストラリア最大の企業BHPを買収しようという野心家まで現れた。まさに夢が夢を呼ぶ桃源郷の出現である。

 そのころ筆者のいた事務所はシドニーの高台にある36階建てのビルの最上階で、いわばシドニーで一番高いところであった。リースが切れる時期となり、選択肢としてリースを継続して古くなった内装と家具類を新しくするか、新しいところに移るかであった。色々検討の結果シドニー湾に面した眺望のきく新築ビルに移転することとなった。ところがそのころ不動産バブルははじけており、突如貸し手は極めて弱気になり、結局交渉の結果一定期間の賃貸料は無料とし、引っ越し費用も貸主負担ということになった。その差額はオーストラリア・ドルで二百万ドルであった。普通引っ越しすれば余計な費用がかかり、それを何年がかりかで償却するのであるが、この場合新しい事務所に移転するだけでこれだけの利益が出たのである。やはりオーストラリアは天国なのかもしれない。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧