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エッセイ・コラム 日常生活雑感

ガマとの対決

金京 法一

 我が家の庭にはメスの柴犬が放し飼いされている。日本犬の特徴として飼い主以外にはあまりなつかない。郵便配達、新聞配達、宅配便、その他始終やってくる人達にそのたび丹念に吠えている。いい加減にしろと言いたいが犬は大まじめである。

 この柴犬が時々夜中に異様な声で吠えることがある。それは相手を威嚇するのでもなく、何か哀願するのでもなく、いわば怯えているような鳴き声なのである。戸をあけて庭の様子をうかがうが、不審者がいる様子はない。

 比較的夜帰りが遅い娘婿の話では、邸内の通路で,時々赤茶けたガマやヘビを見かけるという。庭にはかつてかなり大きな池があり、ガマ蛙が住んでいたし、ヘビもいた。池をつぶした後はガマやヘビはいないと思っていたが、しぶとく生き延びているらしい。

 それにしても犬の鳴き方は異常である。ただガマやヘビが現われただけではなさそうだ。どうも原因は犬の水であるらしい。水を犬小屋のそばに置いているときは何事も起こらないが、離れたところに置いてある夜に犬が騒ぐところをみると、どうやらガマがコッソリ犬の水を飲みに来るのではなかろうか。野生動物にはもはや無縁と思われる都会の住宅地の片隅に、意外な自然が息づいているのではなかろうか。

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