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エッセイ・コラム 政治・経済・社会

贅沢のすすめ

野瀬 隆平

 世間では、エコ、節約それから「もったいない」という言葉が有難がられ、皆がそれを実践しなければならないと考えている。
 しかし、それも程度問題で、あまりにも全体が極端にその方向に走ると経済が縮んでしまい、ますます景気が悪くなる。この辺りのことを、「無駄遣いのすすめ」という題で書こうと考えている、と友人に漏らしたら、とんでもないという顔をされた。さすがに「無駄遣い」は許されないだろう。それでは「贅沢のすすめ」にしようかと考えながら、朝、新聞を広げたら、大きな字が眼に飛び込んできた。
「買い物は、世界を救う。」と大きな活字が躍っている。1ページの全面広告である。高橋是清の語ったことが大きなポイントを使って引用されている。お読みになった方も多いと思うが、要するに、個人が節約して貯蓄すれば、個人の経済としては結構なことかも知れないが、その分だけ世の中に回る金が少なくなり、国の経済という観点から見ると、それだけ生産力が低下し経済が停滞することになる。節約するよりむしろ贅沢に金を使ってもらった方が望ましい、云々というものだ。これは、あるカード会社の広告で、大いにカードを利用して買い物をしてくださいという宣伝である。

 引用は高橋是清の随想録からで、経済学では常識となっていること。いまさら、という人もいるだろうが、丁度、私が書こうとしていた内容と重なるので、あえて要点を紹介した次第である。どうも最近のマスコミや評論家は、将来の不安を掻き立てすぎるのではないか。個人としては、節約して不透明な将来に備えたい気持ちになるが、皆がそれを実行すれば、結果として自分の首を絞めることになってしまう。

 ちなみに高橋是清は、日本が世界恐慌の影響で不況に喘いでいたとき、大胆な金融政策で日本の不況を克服したことは良く知られている。その政策とは、歳入補填のための国債を日銀に引き受けさせるというものであった。これによって、穏やかなインフレとなり生産は拡大して、不況を脱することが出来たのである。

 現在の日本の経済状況で、必ずしもこの手法がそのまま使えるとは限らないが、検討する価値は十分あると考えている。

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