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「800字文学館」

ハッブル望遠鏡

内藤 真理子

 食事の後片付けの手を止めてテレビ画面を覗いたら、満天の星空に様々な色のついた雲が交じり合い、ふわふわのかたまりとなっているのが写っていた。その映像のあまりの美しさに見とれ、椅子に座り込んで本格的に見始めた。それはハッブル望遠鏡がとらえた宇宙の映像だった。
 写っていたのは6千万光年かなたの星雲だという。
 その中心にハートのような形のバタフライ星雲があり、一段と明るい光を放っている。羽の端から端までの距離は2光年あり、中心のくびれたところは、太陽の四倍の明るさで、大気に晒されないので鮮明に見えるそうだ。このバタフライを中心とする、数個の綿菓子に、赤、青、黄色の色をつけたような星雲の中に、星の誕生から死までの総てを見ることが出来るのだという。
 年老いたバタフライ星雲は、ガスを噴き出し爆発して死を迎える。その爆発の中心から放出されたガスと宇宙の塵が集まって赤ちゃん星が作られる。若い星は青い色をしていて年を取るほど赤く輝くそうだ。
「芸術作品みたい、宇宙でもこんなに綺麗な色にみえるのかしら」
 と質問した私に、夫の怪訝な顔。
「そりゃ同じだろう。デジタル信号にして送るのだから」
「えっ?」ここで私の頭は真っ白。「何で?どうして?」
 夫はビデオを取り替え「これを見るとわかるよ」と言って去って行った。
 色々な映像を交えたそのビデオは、知識が豊富な人を対象にしているのだろう、そのどこを見ればわかるのかさえ解らないが、私なりに。
 光の三原色のフィルターを使って別々に撮った映像をデジタル信号にして送る。地上に送られてきたものは、宇宙を飛び交う放射線などの影響で傷だらけになっているので、まずノイズを取り除いて画像を鮮明にする。それから、送られた三色を重ね合わせたものの中に、星やガスを別々に距離ごとに置いたりして組み立てる。と言っているようだ
 何といってもガスや塵で出来た星は、発光し、流動し……。
 まるで雲をつかむような話ではないか。

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