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「800字文学館」

多満自慢

大森 海太

 コロナのため外で酒を飲む機会がなく、もっぱら自宅で晩酌ということになった。飲むものは赤ワイン、芋焼酎、日本酒など気分によってかえてみる(カミサンはビール専門)。そんなある日、近所のスーパーの酒売り場でふと目にとまったのが純米無濾過「多満自慢」である。無濾過だと? ラベルには小さな字で「濾過という御化粧をかなぐり捨て、素顔のままで登場。ほのかな山吹色で米の贅沢そのもの・・・」などと書かれている。半信半疑で買い求め、さっそくその晩燗をつけて試してみたところ、色は薄い黄色で口に含めば少し重たい、なにやら懐かしい昔の酒を思い出す飲み口である。

 近頃の日本酒はほとんどが活性炭などで漉して無色透明に仕上げるのだが、敢えてその工程を省いている。また一般に酒米の精米歩合は五〇%前後で、中には七〇%近く削っているものもあるが、これは三〇%しか削っていないので、その分だけ糖質以外の成分も含まれているのだろう。御化粧を凝らした最近流行スッキリ系の「獺祭」などとは大違いで、この「多満自慢」は旧家の縁先で普段着のままのんびり飲る酒といった趣があり、また四合瓶で九百円弱と安いこともあって、すっかり気に入ってしまった。

 話はかわるが、先日飲み友達でゴルフ仲間のHさんが、Go To トラベルで行った宮古島のお土産に、当地特産の「雪塩」をくださった。粉のように細かい真っ白な塩の粒で、舐めてみるととても柔らかい。たまたまそこにあったカツオのタタキにつけて口にすると、かえって醤油よりも味が引き立つような気がした。ほかにも色々な料理に合うのでカミサンもお気に入りで、小さな陶器の壺に入れて食卓に常備している。

 二ヶ月ほど前、孫たちが初めてのボルダリングに挑戦しているのを見て、「そうだ、人生は出会いだ、新しいことの発見だ」と思ったが、いやあ、年をとってもコロナがきても、新しい出会いは待っている。この秋は多満自慢と雪塩に出会えてちょっと好かった。

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