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「800字文学館」

山旅追想—十勝岳駆け足登山(2001年7月)

大月 和彦

 北国の夏は夜明けが早い。5時、北海道の友人二人と小樽をRⅤ車で発ち、道央道経由で富良野盆地へ。7時ごろ十勝岳の登山口望岳台(930m))に着く。
 山麓の一帯がスキー場になっている。友人が「山歩きの必需品だ」と缶ビールとワンカップを渡してくれる。ザックに詰める。
 ゲレンデ内の登山道を歩き出す。リフトの支柱が目安になる。スロープには岩がごろごろ、溶岩流でえぐられた深い溝が至る所に走っている。
 登山用のストックを初めて使う。意外に歩きやすい。。急坂の下りには膝の負担を軽くしてくれる。
 リフト終点の上部に避難小屋があった。ここから新噴火口に直接向う道は通行禁止という。雪渓を渡り、尾根道にとりつく。
 雷鳴のような爆音がひっきりなしに聞えてくる。自衛隊富良野演習場の実弾射撃だという。
 勾配のきついジグザグの道、両側が切れ込んだ馬の背状の道など。濃いガスがかかり視界が悪く、大正火口や昭和火口など新しい噴火口があるはずだが見えない。
 岩に付けられた赤ペンキの目印と低木の枝に結びつけられた布切れを頼りにして登る。近くにあるらしい火口からガスを噴きだす音が聞こえてくる。白っぽい粘土質の斜面を横切り、火山礫の道に入るとツーンときつい硫黄の匂い。上方の岩の間に人影が見える。頂上(2077m)だ。気温7度。強い風、水滴が横殴りに飛んでくる。視界ゼロ。
 頂上を一歩下り岩陰に入ると風はぴたりと止んでいる。缶ビールで乾杯。ワンカップも飲み干す。半時後下山に。2時過ぎ望岳台に帰着し車で白銀温泉へ。

 雪氷学者中谷宇吉郎博士が雪の結晶の撮影に成功した山小屋が近くに残っているという。最近建てられた保養センターで汗を流し、キャンプ場で打ち上げのバーベキューパーテイー。車に積んできたコンロに銭函で獲れたシャコ、殻付きのホタテ、イカの醤油漬けなど載せる。香ばしい匂い。ビールが進む。
 いつのまに現れたのか痩せたキタキツネが傍の崖に座ってこっちを見ていた。

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