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「800字文学館」

掌編小説ネタ探し

内藤 真理子

 当クラブの掌編小説勉強会に所属して、二ヶ月に一度、原稿用紙五枚~三十枚の小説を書いている。
 書きたいものが早めに決まった時には、図書館で本を借り、充分時間をかけて調べたりもするが、そんなことはめったにない。二ヶ月なんてあっという間に経って七転八倒の日々が始まる。
 今回もそうだ。どうしても物語が浮かんで来ない。
 提出の一週間前なのに……苦し紛れに「二週間で小説を書く」というハウツー本を読んだ。その中に
〝たまたま出くわしたことを題材にする〟とあった。
 ん、 ひらめいた!
 昨日、コロナ禍の町で野球帽を目深にかぶって黒いマスクをした女性とすれ違った。誰もがマスクをしている昨今、珍しい光景ではないが、一種の凄みがあった。彼女をモデルにすると、見ようによっては黒いマスクが化学兵器から身を守る戦闘グッズにも見えるのでは……。
 この女性を魅力的な悪役にして何とか小説にならないものだろうか。そこまで考えて、行き詰った。
 動物園にでも行ったら、何か良いアイデアが浮かんでくるかもしれない、そう思い近所の動物園に向かった。霧雨が降っている。子供連れはもとより、物好きな客などほとんどいない。
 この動物園も、昔は象がいたが老衰で死んでしまい、象舎には在りし日の花子の写真が飾られていた。
 六羽ほどいるペンギンは、ほとんど動かずじっとしている。霧雨が強くなったので柵の前で傘をバンと開いたら、その音で六羽のペンギンがびくっとした。
「びっくりさせてゴメン」と謝ると、ペンギンたちは胸を張って知らんぷり。
 他の動物も雨にあたらないように隅っこに避難している。やっぱり動物園はお天気で元気な子供がいなくちゃあ活気がない。

 せっかく来たのだから物語を考えよう。
〈警官に追い詰められた件の女性、蝙蝠の檻を破り、枝にぶら下がっている蝙蝠の足を持てるだけ持つと、追手の警官を尻目に悠々と空に舞い上がった〉
 な~んて言うのは……教室の面々の呆れ顔が目に浮ぶ。

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