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「800字文学館」

グレタ・ガルボの「ニノチカ」を観て

木村 敏美

 NHK BSシネマでグレタ・ガルボ主演の「ニノチカ」が放映され、心が踊った。初めて見る映像の彼女の美しさは、時代を超え洗練された都会のキャリアウーマンを思わせた。
 映画は1939年アメリカ、エルンスト・ルビッチ監督。モノクロ製作。
 ロシア革命後、貴族から没収した宝石の売却の任命を受けたソ連の女性特務使節の、パリでの行動と恋を描いたコメディ。政治的な背景を織り交ぜながら、自由におしゃれや食事を楽しみ、笑う事の大切さが、唐突な展開ながら、さり気なく明るく描かれている。映画の中でクールさが売りのガルボが笑う事でも話題になった。
 共産主義への批判とも取れる結末だが、資本主義の問題もあちこちに散りばめられている。第二次世界大戦も始まった時代に、これ程風刺に富んだ内容をスマートに表現したハリウッド映画に歴史を感じた。

 スウェーデンの貧しい家庭に育ったガルボは、その美貌と演技力でハリウッドの歴史を変える女優になり、日本でも知られるようになった。私は以前、朝食に行くレストランでよく見る老婦人の事を「喫煙室のグレタ・ガルボさん」という題で、エッセイを書いた事がある。これを読んだある紳士は、近くのコーヒー店に行く度に妙齢のご婦人を捜す癖がついたとの事。顔の事は一言も書いてはいないが、ガルボという名前は現代でもかくも影響を与えるのだ。

 女優として成功してからもマスコミを避け、36歳で引退した後も公の場には姿を見せず84歳で他界。彼女の残した言葉に
「私は疲れて、神経質になってアメリカにいる。生きていることもわからなくなる所ね」
「これまで見たものの中で最も美しかったのは、腕を組んで歩く老夫婦の姿」というのがある。
 世界的な名声と成功を手にいれながら、それに執着せず、スターの座を去る時の潔さと、自分らしく孤高に生きた生涯は彼女の美学であり、クールでミステリアスな伝説の女優としていつまでも記憶に残るだろう。

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