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「800字文学館」

CDの贈り物

川口 ひろ子

 音楽仲間Y氏のブログを愛読している。語られるのは趣味のクラシック音楽や、リタイア後も続けている設計関係の仕事の話など。あっさりとした文章は彼の人柄そのもので興味深い。このブログの6000人目の訪問者となったので通知したところ、記念のCDを贈るので希望の曲を知らせてとのこと、迷わずモーツァルトのピアノ協奏曲23番をお願いした。探せばまだ残っているが取敢えずと、31曲のリストが送られてきた。この中から古典派奏者として名高い英国の女流マイラ・ヘス版をお願いし、後日受領した。

 ピアノ協奏曲23番K488は1786年モーツァルト自身の手で初演されたと言われている。。古典的な形式美と流れるような旋律美が絶妙に調和した曲として人気が高い。早速拝聴。このディスクは1961年ロンドンでのライヴを収録したものだ。晩年を迎えた奏者の気負いのない演奏が心地良く、特に第2楽章アダージョが絶品だ。シチリアーノのリズムに乗って、哀しく遣る瀬無い主題が繰り返し現れる。
 しかし23番といえば何といってもルーマニア出身のクララ・ハスキルだ。2人共1800年代末の生まれで、ユダヤ系故にナチスに追われ命がけで演奏活動を行ったという。ハスキルにヘス、録音に7年の差はあるが2人の演奏の聴き比べをしてみた。凛とした響き、全編隙のない演奏の続くハスキルよりも、リラックスしてオーケストラとの会話を楽しんでいるようなヘスの演奏が好きだ。
 共にLPからの復刻版。緩めテンポ、くぐもった響き、時々聞こえるレコード針のノイズらしき音……。過ぎた日々が懐かしい。昨今は鎮まったが、少し前までは、熱烈なLPファンたちが熱い音楽談義を交わしていた。
 こうなったら現代の演奏を聴かねばとばかり、グルダに内田光子、その他手持ちのピアノ協奏曲23番を次々と聴くことになった。

 Y氏のブログ6000番のお陰で、私はコロナ禍の中、厳しい残暑をものともせず充実の午後を過ごした。

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