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「800字文学館」

大阪ミナミ

塚田 實

 NHKの「新日本風土記 道頓堀界わい」を観て、大阪勤務時代を懐かしく思い出した。住居は靭公園に面した単身赴任者用マンションで、御堂筋まで5百メートル、大丸心斎橋店まで2キロメートル弱の便利なところにあった。 週末は京都や奈良など郊外に出かけることもあったが、散歩がてら道頓堀界隈、いわゆるミナミにはよく出かけた。

 藤島桓夫の『月の法善寺横町』で有名になった法善寺横丁をぶらっと歩く。苔に覆われた水かけ不動尊の横に、ぜんざいで有名な「夫婦善哉」があり、何回か入った。「そう言えば昔ミヤコ蝶々と南都雄二のテレビ番組『夫婦善哉』をよく観たな」。法善寺横丁は何度か火災に見舞われたが、見事に復興を遂げ、接待でも使うようになり、何軒かのお店とは馴染みになった。
 NHKでは「道頓堀 今井」や「はり重」も紹介していた。「今井」は1999年に閉館した「中座」の隣にあるうどん屋である。中座では藤山寛美が松竹新喜劇公演で一世を風靡した。今井の自慢は北海道道南黒口浜の天然昆布と九州産さば節とうるめ節を使用した『だし』だ。きつねうどんの微妙な味は忘れられない。「はり重」は大阪松竹座の隣にある洋食グリルで、肉は黒毛和牛の雌牛に拘わり、すき焼きは絶品だった。
 南に下ると千日前に「なんばグランド花月」がある。漫才の聖地で、上方落語も楽しめる。身近で観る公演は、テレビより遥かに迫力がある。吉本新喜劇のドタバタ劇など、大阪ならではの出し物だろう。
 旧大阪球場の跡地は「なんばパークス」になっており、ここの最上階に「南海ホークスメモリアルギャラリー」がある。鶴岡一人監督やアンダースローの杉浦忠投手の名も懐かしい

 コロナの感染拡大を防止するため、ミナミは休業や営業時間短縮などの要請を受け、経営は苦境に陥った。早くコロナが終息し、ミナミが元気を取り戻してほしい。テレビでは「負けへんで~」、「やったるで~」の旗が風になびいていた。がんばれミナミ。

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