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「800字文学館」

Statues 銅像

稲宮 健一

 東京大学本郷の構内には多くの銅像が建っている。木下教授の「キャンパス散歩」に銅像の案内が書かれている。十九世紀に活躍した医学のE.Baelz、J.Scribe、工学のJ.Conderなど明治日本に西欧文明の最初の扉を開いたお雇い外国人を顕彰したものだ。戦争中に撤去の動きがあったが、今も立派に立っている。
 蘭学事始めから始まり、明治に入ってから多くの先人を高給をもって招いた。もたらせた当時の先端の文化に対して尊敬と感謝の念を持ち銅像を建立した。他にも大阪造幣局のW.Gowland、札幌農学校のW.Clark、美術のA.Fenorosaなどに多くに顕彰や、碑文などで業績が後世に伝えている。

 台湾では烏山頭ダムの湖畔に金沢出身の八田與一(一九〇〇年代)の像が建っている。八田與一は戦前の台湾で、当時洪水、干ばつ、塩害に悩まされていた不毛の嘉南平野に東洋一の灌漑用のダムを完成させ、肥沃な地に変えた。その一大事業の顕彰のため湖畔に像が建てられている。そして、昨日亡くなった李登輝元総統、国民党の馬英九元総裁からも感謝の栄誉を受けている。

 最近では「Black Lives Matter」の世論が湧きあがるなか、過去の奴隷制の遺産だとして、デモの勢いで十八世紀の米国独立宣言の起草者であるT.Jeffersonが奴隷制に寛容だったとか、南軍のLee将軍、さらにはロンドンでは奴隷商人であったR.Milliganの銅像が引き倒される事態が発生している。今でもまだまだ現存する人種差別の怒りは十八、九世紀の顕著な記憶のしるしを現在の視点で眺めて、改めて拒否反応を表した。

 広島平和記念資料館、アウシュヴィッツ収容所跡、中国人民抗日戦争記念館など、人類の愚かな戦争の痕跡を物語る記念施設がある。各施設は再び繰り返さない教訓が示されるが、七十年後の今の社会にも結びつている事柄であるので、展示内容はあくまでも第三者の目で見ても内容が正確で、適切であることが大切である。銅像とか、顕彰碑は特定な意図のもと、恨みだけを後世に残す意図のものは避けなければならない。

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