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「800字文学館」

学べ、さもなくば黙れ

志村 良知

 スーパーコンピュータ『富岳』が世界一の座を奪回した。それも計算速度の力業だけではなく、実使用上の柔軟さにおいても群を抜いているという。ノーベル賞の科学系でも毎年のように受賞者を輩出している。ご同慶の至りである。
 しかし、残念ながらこれが日本の基礎科学の実力とは言い難いようだ。科学論文の発表数は世界第4位。1、2位を争う米・中の5分の1でしかない。
 一般の人の理系への理解度は更に悲惨だ。テレビのクイズ番組では、漢字や歴史、地理の学者も分からない超難問が出題される。しかし、話が理系になると「空気中の窒素の割合」「ピタゴラスの定理」「大気圧」が何だかわからないお笑いの種として扱われ、三角関数や対数は何の役にも立たないと断罪される。
 ゆとり教育の時代、「円周率はおよそ3」と教えるのだと面白おかしく報道され、「円周率なんて気にしたことは無い。3でも4でも構わない」とテレビで得意げに公言する輩が続出した。理系の知識への無知無関心が、恥ではなく自慢になるような風潮になっている。

 理系の知識は基礎からの積み重ねであるが、大人になってからでも学ぼうと思えば学べる。
 科学雑誌として唯一生き残っている『ニュートン』、その科学雑誌としてのレベルは『Nature』や『Science』には到底敵わないが、グラフィックを駆使して最新の理論、技術を分かりやすく解説してくれる。
 インターネットには特殊相対性理論やニュートリノ振動についてさえ様々な難易レベルでの日本語解説があって、自分に合った難度で勉強できる環境がある。

 我が子から「パパ空はなぜ青いの」と聞かれたら物理学的にちゃんと答えよう。その理論「レイリー散乱」では波としての光、円周率、三角関数などの理解も必要になってくる。お笑い系の「ヤバイ」説明で受けを狙うのは止めよう。
 自分が理解できないものへの畏敬を忘れ、要らないとし、バカにするのはバンダリズムである。判らず、学ぶ気も無いなら黙っていろ、と言いたい。

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