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「800字文学館」

テレワーク

大森 海太

 近ごろ、或ることで若手の某弁護士に会う機会があった。
「先生、久しぶりですね。最近はやっぱりテレワークですか?」
「イエ、それが我々の業界は遅れてまして、相変わらず書類と印鑑のために出歩かなければならないのです。先進諸国ではペーパーレスが進んでいるのに」

 ウチの息子は最近もっぱらテレワークで、1日中家でパソコンと睨めっこしたり、アチコチと打ち合わせしている。聞いてみると以前からテレワーク化は始まっていたが、コロナのせいで一気に加速したのだそうだ。ところが役人をしている息子の嫁のほうは、何故かこのところ毎晩深夜の帰宅。国会の答弁やら他省庁との調整とやらで時間待ちが多く、デジタル化も進んでいないようだ。

 どういうことだろう。民間では変化しつつあるのに、中央官庁や法曹界が旧態依然たる仕事から抜け出せないのは。彼らが無能で怠惰なためだろうか。イヤ、むしろその逆で、皆まじめすぎるくらいかも知れない。
 理由はいろいろ考えられるが、ひとことで言えば我が国はまことに住みやすい国だということだ。世界の多くの国では、民族、言語、宗教の異なる人種が混じりあって、そのストレスたるや日本ムラ社会では想像もつかない。これを克服すべくIT化が生まれたのであって、まさに必要は発明の母、ニーズの乏しい日本の社会では発想が浮かびにくかったのだろう。

 テレワーク普及により都心のオフィス空間は縮小しつつあるそうだ。ペンクラブの活動も技術に強い会員諸氏のご尽力で、Zoomによる勉強会や月例会などができるようになった。しばらくは腹を括ってこれで凌ぐしかないと思う。
 でも我々は実務を行っているのではないし、エッセイや俳句、川柳、掌編小説などを通して楽しみを分かち合うには、やっぱり皆で集まってワイワイ歓談したり、イッパイやったりするのが好ましいのだ。オンライン飲み会はイマイチ盛り上がらない。3密で残り少ない人生をエンジョイする日を待ち望んでいます。

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