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「800字文学館」

私のおうち劇場 その3
新国立劇場(初台)の「コジ・ファン・トゥッテ」

川口 ひろ子

 2020年3月上演予定の新国立劇場公演モーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」は、コロナ禍の為中止となった。

 世界の最前線を行くダミアーノ・ミキエレットの新演出によるこの舞台の初演は、東日本大震災の2か月後であった。福島の事故で東京は全滅という噂を信じてか、指揮者と主演歌手合計4人がキャンセル。急遽代役を立てての公演は、満足できるものではなかった。この舞台が2013年に再演された。これが初演の不都合を払拭させる出来栄えで、TV中継もされ録画した。今年3月の再々演を期待したが今度はコロナだ。そこで奥の方に納まっている映像を探し出して、私のおうち劇場開催となった。

「恋人を交換してみたら果たして……」という奇想天外なお話が、モーツァルトの遊び心溢れる音楽に乗って語られるオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」。時は現代、場所は北イタリア辺りのキャンプ場。
 今が旬、世界トップクラスの歌手たちによる2重唱から6重唱まで、見事なアンサンブルが素晴らしい。ソロでは、ブロンドヘアーが美しい主役のミア・パーションが、揺れる心に苦しむ姉娘の姿を丁寧に演じていた。捨身の攻撃で彼女に迫るパオロ・ファナーレの高音も真に結構な出来栄えだ。キャンプ場のオーナー・アルフォンソ役のマウリツィオ・ムラーロのバスの明るい響きが、いかにもイタリアという感じで好きだ。  
現実離れしたドタバタ騒動の中から現れた人間の真実は甘いものではない。一度離れた心を元の鞘に戻すのは難しい。4人の恋人達はバラバラになって退場し、舞台中央に呆然と立つのは、女性の貞節を試そうと若者達を焚きつけたアルフォンソだ。「私の企みはこれこの通り失敗です」と、呟いているのだろうか。

 鬼才ミキエレットによる辛口でドライな恋のお話しは、モーツァルトの軽妙な音楽に乗って真実味をもって現代に蘇る。
 それにしても、音響抜群の新国立劇場でライブを楽しめる日は何時戻って来るのであろうか?

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