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「800字文学館」

コロナ優先はわかるけど・・・

斉藤 征雄

 4月7日、政府は東京などにいわゆる「特措法」に基づく「緊急事態宣言」を発出した。
 東京では3月下旬から新型コロナウイルス感染者が急激に増加し始めて、4月に入っては連日100人を超える新規感染者が発生していた。それに伴い感染者を受け入れる医療機関は、医療崩壊寸前にあるとまでメディアは報じていた。

 翌4月8日、私はある病院で胸部のCT検査を受けることになっていた。1月に受診した 人間ドックの結果が2月にわかり「腫瘍マーカー(Cyfra)が上昇しているので精密検査を受けるように」といわれていたのである。Cyfraは肺がんのマーカーである。X線写真では何の異常もなかったので、医師も「それじゃ念のために一応CTを撮りましょう」と軽い調子で端末の予定を見ていたが、意外に混んでいて2か月後の検査になったのである。
 私が「そんなに先でいいんですか」と聞くと「空いていないんだから仕方ないでしょ」とぶっきらぼうな返事。
 CT検査はコロナ感染者にも欠かせないが、その頃既にダイヤモンドプリンセス号が横浜に入港していたので、船内感染者がこの病院へ相当数運び込まれていたのかも知れない。この病院はコロナ対応の中心的存在といわれている。
 検査は午後からだったので午前中は家にいたが、突然医師から電話がかかってきた。「申し訳ありませんが、今日のCT検査、6月に延期してもらえませんか。コロナ対応でバタバタしていまして、しばらくはこんな状態が続くと・・・」「え? あ、そうですか」、取り付く島もない。

 それにしても、また2か月後とは。要するに不要不急ということだろう。しかし私にとっては切実である。大丈夫だろうとは思っても、万が一ということもある。手遅れになったらどうなるのだ。コロナ優先はわかるけど、私の心境は複雑だった。
 6月、ようやく検査の日が来た。医師が「CTでは何も問題ありませんでした」といったので安心したが、予期せぬところでコロナの影響を受けたものだ。

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